Target-38:もう一つの戦い



Side:Fran


ミルフィオーレとの戦いから数日。
さくらのいない屋敷は、自分にとってはなんとも味気ない。

彼女が来る前はそれが当たり前だったのに、さくらの温かさに触れ、惹かれてしまったから。
彼女が自分の隣にいないだけで、どうしようもない喪失感にさいなまれる。


「おい!」


突然、隊服のフードを引っ張られた。


「てめー、王子のこと無視してんじゃねーよ」

「なんだ、堕王子ですかー。ミーは今、考えごとしてるんで邪魔しないでくださーい」

「…フラン、お前さくらがさらわれてからおかしーんだよ。
頭は前からおかしかったけど、そんなんじゃそのうちオレに寝首かかれっぞ」


この人にはわからない。いや、わかってたまるか。
自分がどれほど彼女に焦がれているのか。
どれほど彼女を守れなかったことを後悔しているか。

初めて、恋をした相手だった。
他人に無関心な自分が、初めて誰かを守りたいと思ったのだ。


「…ほっといてください」

「任務に支障が出たら、パートナーが迷惑被んだよ。
…今スクアーロが日本に向かってるし、ボンゴレがチョイスに勝って、さくらを取り戻したら連れて帰ってくんだろーが。
てめーがあれこれ考えたってしょーがねーだろ」

「………」


いつものような軽口を叩く気にもなれず、無言でその場を去ろうとする。


「…さくらが心配なのはオレもおんなじだっつの」


弱々しく呟くセンパイの声が、震えた。
思わず、足を止めてしまう。


「好きなんだよ、あいつが…」


気づかなかったわけではない。
一週間ほど前、談話室でうたた寝をしていたはずのさくらの首にあった赤い痕。
本人は断固として、虫刺されだと言い張っていたけれど…見ればわかる。

それはキスマークという名の独占欲。
さくらにそれをつけた犯人がこの堕王子だということも、なんとなくだが、分かっていた。


「…うわ、さくらってばモテモテじゃないですかー」

「は?」

「ミーも、さくらが好きなんですよねー」


ベルセンパイの表情が変わった。
といっても、目元が隠れているので目つきまでは解らない。
けれどギリ、と唇を噛み締めたのが分かった。


「やっぱり…な」

「"やっぱり"ってことは、気づいてたんですかー?」

「おめーがさくらを特別視してんのはな。
だったら話が早いんじゃね?」

「…なにが、ですかー?」


センパイは、ニィ…と口の端を吊り上げた。


「さくらはぜってー渡さねーから。これ、宣戦布告な」


もう一つの戦いが始まる




(それはこっちの台詞ですー)



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