Side:Fran
ミルフィオーレとの戦いから数日。
さくらのいない屋敷は、自分にとってはなんとも味気ない。
彼女が来る前はそれが当たり前だったのに、さくらの温かさに触れ、惹かれてしまったから。
彼女が自分の隣にいないだけで、どうしようもない喪失感にさいなまれる。
「おい!」
突然、隊服のフードを引っ張られた。
「てめー、王子のこと無視してんじゃねーよ」
「なんだ、堕王子ですかー。ミーは今、考えごとしてるんで邪魔しないでくださーい」
「…フラン、お前さくらがさらわれてからおかしーんだよ。
頭は前からおかしかったけど、そんなんじゃそのうちオレに寝首かかれっぞ」
この人にはわからない。いや、わかってたまるか。
自分がどれほど彼女に焦がれているのか。
どれほど彼女を守れなかったことを後悔しているか。
初めて、恋をした相手だった。
他人に無関心な自分が、初めて誰かを守りたいと思ったのだ。
「…ほっといてください」
「任務に支障が出たら、パートナーが迷惑被んだよ。
…今スクアーロが日本に向かってるし、ボンゴレがチョイスに勝って、さくらを取り戻したら連れて帰ってくんだろーが。
てめーがあれこれ考えたってしょーがねーだろ」
「………」
いつものような軽口を叩く気にもなれず、無言でその場を去ろうとする。
「…さくらが心配なのはオレもおんなじだっつの」
弱々しく呟くセンパイの声が、震えた。
思わず、足を止めてしまう。
「好きなんだよ、あいつが…」
気づかなかったわけではない。
一週間ほど前、談話室でうたた寝をしていたはずのさくらの首にあった赤い痕。
本人は断固として、虫刺されだと言い張っていたけれど…見ればわかる。
それはキスマークという名の独占欲。
さくらにそれをつけた犯人がこの堕王子だということも、なんとなくだが、分かっていた。
「…うわ、さくらってばモテモテじゃないですかー」
「は?」
「ミーも、さくらが好きなんですよねー」
ベルセンパイの表情が変わった。
といっても、目元が隠れているので目つきまでは解らない。
けれどギリ、と唇を噛み締めたのが分かった。
「やっぱり…な」
「"やっぱり"ってことは、気づいてたんですかー?」
「おめーがさくらを特別視してんのはな。
だったら話が早いんじゃね?」
「…なにが、ですかー?」
センパイは、ニィ…と口の端を吊り上げた。
「さくらはぜってー渡さねーから。これ、宣戦布告な」
もう一つの戦いが始まる
(それはこっちの台詞ですー)
←→
[戻る]