さくらはリングをはめた手をきゅっと固く握りしめた。
巨雨象が一斉にこちらに向かってくる。
「!!」
潰される、と思ったのも束の間。
象の動きが止まった。
そして象は次第に石化し、崩れていく。
「奥に逃げろ」
さくらはザンザスの言葉に頷くと、城の瓦礫の奥に身を潜める。
そのとき、低い唸り声が聴こえた。
声の主がさくらを庇うように前に立つ。
「…!ベスター」
ザンザスの匣兵器である天空嵐ライオンのベスター。
先ほどの巨雨象を石化させたのもベスターだった。
ザンザスの憤怒の炎が石化した象を破壊する。
「バカな…巨雨象の動きを一切封じるとは」
「バカはおまえだろ?オルゲルト。
巨雨象の動きを止めた犯人が他にいんのさ」
「、匣兵器!?」
驚愕するオルゲルトの前にベスターが姿を現す。
反対に、ジルは驚いた様子もない。
「激レアの白い百獣の王か」
「やはり妙です!!天空ライオンにあのような技があるとは思えません。
なぜなら大空の属性の特徴は調和!!」
調和とは全体の均衡が保たれ、矛盾や綻びのない状態。
しかし巨雨象は石化ののち、調和どころか崩壊し始めていた。
今のベスターは見た目だけならただの天空ライオンだ。
しかし、それは仮の姿でしかない。
「ビビるこたあねぇ。相手が何だろうが、殺しちまえば同じだ。
そして、そこのジャッポーネの女は白蘭様の元へ連れて行く」
「!!」
「やっぱり、てめぇらの狙いはさくらか」
ザンザスは再び右手に憤怒の炎を灯す。
しかし、その表情がすぐに苦痛に変わった。
途端に、体の至るところから血が噴き出す。
「ザンザスさん!!」
「ぐあっ」
さくらは慌ててザンザスに駆け寄る。
「どーだ、嵐コウモリの超炎波の味は?
そんで…次はてめーだ、葉月さくら」
「っ!!」
そのとき、突然襟首を引っ張られ、息が詰まる。
「さくら!」
体が思うように動かせず、拘束されているのだと気づいた。
「クスクス…隙だらけですよ。
ザンザスは負傷し、すでに彼女はこちらの手にある」
ロッシが静かに笑みをたたえている。
ジルとザンザスのやりとりの間、ずっとさくらを捉える機会をうかがっていたのだ。
「私に課せられた命令は、葉月さくらの捕縛とクオーレリングの奪取。
ザンザスの始末はラジエル様にお任せしますが、私はこれで失礼しますよ」
「は、お前なに言ってんの?」
「…いえ、訂正しましょう。
私は白蘭様の秘書。最早あなたより上だ。
ラジエル、あなたの命令に従う義務はない」
そう言うなり、ロッシはさくらを連れたまま消え去った。
奪われたもの
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