了平さんは、日本に帰っていった。
ミルフィオーレの強さは私だって知っている。
白蘭の野望の為に、何人もの人々が血を流し、命を落とした。
その生々しい世界に私は足を踏み入れてしまった。
これは漫画の中の話では済まない。
まぎれもなく、今自分が体感している現実なのだ。
怖い
死にたくない
そんな想いばかりが頭を支配する。
突然、身体が後ろに引かれ、目の端にカエルの帽子が映った。
フランさんが、私の腕を引いた。
「そんな顔…しないでください」
「え…」
「ミーが、さくらを守ります。堕王子にも、ロン毛先輩にも渡しません」
どういうこと…?
周りを見れば、食堂には誰もいなかった。
皆、これからの戦いの為にあちこち動いているのだそうだ。
フランさんが、ぎゅっときつく抱きしめてきた。
その温もりを背中に感じて、身体を支配していた恐怖が解けていく。
「さくらが好きです」
「え…フランさんっ…」
「キスして、いいですかー?」
そう言うなりフランさんは私の顎を掴んで上を向かせると、返事も聞かずに唇を重ねてきた。
「…っ、」
「好きです」
いままで向けられたことのない感情に戸惑う。
頭の中が真っ白で何も考えられない。
私は糸が切れたようにフランさんの腕の中にもたれかかった。
「いつかさくらが、ミーの事を好きになってくれるのを待ってますねー」
フランさんは私に優しく微笑みかける。
そういえば笑ったところ、初めて見たかもしれない。
なんて頭だけが冷静な中、心臓は今までにないくらい鳴っていた。
焦りと、衝動
(君を失くしたくないと、思った)
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