Target-19:焦りと、衝動



了平さんは、日本に帰っていった。
ミルフィオーレの強さは私だって知っている。

白蘭の野望の為に、何人もの人々が血を流し、命を落とした。
その生々しい世界に私は足を踏み入れてしまった。
これは漫画の中の話では済まない。
まぎれもなく、今自分が体感している現実なのだ。


怖い
死にたくない

そんな想いばかりが頭を支配する。


突然、身体が後ろに引かれ、目の端にカエルの帽子が映った。
フランさんが、私の腕を引いた。


「そんな顔…しないでください」

「え…」

「ミーが、さくらを守ります。堕王子にも、ロン毛先輩にも渡しません」


どういうこと…?


周りを見れば、食堂には誰もいなかった。
皆、これからの戦いの為にあちこち動いているのだそうだ。

フランさんが、ぎゅっときつく抱きしめてきた。
その温もりを背中に感じて、身体を支配していた恐怖が解けていく。


「さくらが好きです」

「え…フランさんっ…」

「キスして、いいですかー?」


そう言うなりフランさんは私の顎を掴んで上を向かせると、返事も聞かずに唇を重ねてきた。


「…っ、」

「好きです」


いままで向けられたことのない感情に戸惑う。
頭の中が真っ白で何も考えられない。
私は糸が切れたようにフランさんの腕の中にもたれかかった。


「いつかさくらが、ミーの事を好きになってくれるのを待ってますねー」


フランさんは私に優しく微笑みかける。
そういえば笑ったところ、初めて見たかもしれない。
なんて頭だけが冷静な中、心臓は今までにないくらい鳴っていた。



焦りと、衝動



(君を失くしたくないと、思った)




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