Target-14:悪夢の始まりを告げる鐘



翌日。
私はベッドの中で、昨日のリングを眺めていた。
フランさんは、このリングが何らかの属性を持っていると言った。
しかし私は、このREBORNの世界とは何の関係もないただの一般人。
しかも灯る炎は漫画のどこにも載っていない、白い炎。


―――なんで…?
私、これからどうなるの…。


私は枕に顔を埋める。
その時コンコン、とノックの音がしてスクアーロさんが入ってきた。


「さくら…ちょっといいかぁ」

「?」

「この城がもうすぐ戦場になる。
お前を巻き込む訳にはいかねぇ…お前は日本に行くんだぁ」


私はわけが分からず、荷物をまとめようとするスクアーロさんの腕を掴む。


「ちょっ…ちょっと待って下さい!
戦場ってどういう事ですか!?私がどうして日本に…」

「―――…まだお前に、俺たちの本当の姿を見せる訳にはいかねぇんだぁ」


そのつぶやきに、私はハッとした。
スクアーロさんたちは私が、ヴァリアーが暗殺部隊だということを知らないと思っているのだ。
そして、そのことを敢えて言わないようにしている。


―――私に、血生臭い世界を見せないために…?


「―――嫌です!」


私の口から出た答えは、NOだった。
どこの誰と戦うのかは知らないが、今までよくしてくれたみんなが必死に戦ってるのに、1人日本に逃げるなんてできない。
例え戦う力がなくとも、私だって盾くらいにはなれる。


「う゛お゛おい…お前何言ってんだぁ。
下手したら死ぬかも知れねえんだぞぉ…そんな危険な所にさくらを置いて置けねぇ」

「でも…!」


私が更に食い下がると、スクアーロさんはため息をついて私の頬を両手で優しく挟み込んだ。
鋭い光を帯びた双眸が私を射詰める。


「…いいかよく聞けさくら。敵が狙ってんのは、お前だぁ」

「……え?」


スクアーロさんの端麗な顔が近づき、互いの額がコツンとくっついた。


「す、スクアーロさ…」

「…俺たちはな…ボンゴレって言うマフィアなんだぁ…。
ヴァリアーってのは、そこの暗殺部隊だ」


―――暗殺部隊。
紙面でよく目にしていた単語も、目の前に実在するヴァリアーの幹部がいうと、とても残酷に聞こえた。


頬を挟み込んでいるスクアーロさんの両手に、自分の手を添える。

「スクアーロさんも…人を、殺すの?」

「…ああ。今まで、数え切れない程の数を殺してきた」


スクアーロさんの手はこんなに温かいのに、人を殺せる冷たい手でもある。
それが堪らなく悲しかった。


「さくら」


スクアーロさんに名前を呼ばれて、ビクッと肩を震わせ無意識に体を引いた。


「…あ…」


悲しそうに私から離れるスクアーロさんの表情を見て、ズキンと胸が痛む。
私は初めて、ヴァリアーを怖がってしまったのだ。



悪夢の始まりを告げる鐘



(拒絶される事は覚悟していた)
(なのにこんなにも胸が痛むなんて、)



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