Distance




「日吉」


放課後の部活が終わり、汗の処理を終えて制服に袖を通していると、3年の忍足さんに呼ばれた。


「なんですか?忍足さん」

「日吉のクラスに、さくらちゃんって子おるやろ」


さくら……ああ、七瀬のことか。

なぜ忍足さんが七瀬のことを知っていて、そして気にするのだろうか。
少し気に食わなくて、不機嫌さを隠そうともせずに言葉を返した。


「…いますけど、それがどうかしたんですか?」

「日吉、仲ええん?」

「…さあ。委員会が同じだから、割と会話はしますけど」

「ふぅん。なるほどなぁ…」


意味深に俺をジッと見る忍足さんに若干苛立ちを覚える。


「あいつがなんなんです?」

「別に…こないだたまたま知り合うてな、ちょっと話しただけや。気にせんといて」


気にするなと言われると、気になってしまうのが人間だ。
だいたい忍足さんと七瀬は学年も違うし、関係なんてなにもなかったはず。

そのことを何度忍足さんに聞いてもはぐらかされ、俺はイライラした気分のまま家路につくことになった。












そして翌日の朝練に、忍足さんは姿を現さなかった。


「くそくそ、侑士のやつ絶対サボりだぜ!」


向日さんが不満げに文句を言うが、俺は昨日の今日で忍足さんが部活を休んだことに、なぜか胸がざわついていた。

忍足さんは…七瀬と一緒にいる気がする。
そんな漠然とした予感は見事に当たることになった。

練習を終えて教室に向かう途中の中庭で、七瀬の姿を見かけた。
案の定、忍足さんも一緒にいる。
部活をサボって何をしているのかと問い詰めようと足を踏み出したその時だった。

七瀬が、涙をポロポロと零していた。
気の強い性格である彼女が泣くところを、俺は一度も見たことがない。
思わず足を止めてしまう。

ここから二人の会話は聞こえなかったが、忍足さんが七瀬の頭に手を置いているのが見えて、恐らく頭を撫でているようだった。


「あ…」


出て行きづらい雰囲気に俺が足踏みしていると、突然、忍足さんが七瀬の頭を自分の胸に引き寄せる。

俺はなぜかいたたまれなくなって足早にその場を去った。





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あきゅろす。
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