買い出し中、殆ど傍観しているだけの財前に荷物を持たせ合宿施設に戻ると、昼食が既に用意されていた。
海堂と越前はともかく、四天宝寺のマネージャーはそこそこ料理ができるらしい。
料理部として複雑なのか七瀬はうぐ、と変な声を出していた。
「ま、負けそう…」
「何の勝負だよ」
軽く突っ込みを入れ、隣に座る。
本意ではない。他に空いている席がなかったのだ。
出汁のきいている味噌汁をすすりながらちらりと隣を盗み見る。
…なんだ?
見れば七瀬はほとんど箸が進んでいない。
ざわざわと騒がしい食堂の中、こいつの席だけ別空間にあるかのように静かだった。
ドクン、心臓が大きく音を立てる。
いつぞやに一緒に映画を観に行った時のこいつを思い出した。
「―――おま」
「なんや、さくらちゃん食欲ないん?」
声をかけようとした矢先にそれを遮って向かいの席から甘ったるい声。
また忍足さんか。
「いえ、そ…そんなことないですよ!こ、このおひたし美味しいですね」
「それお新香やけど」
「え?あ、あはは言い間違えました!」
食べてもいない漬物を指差す。
というか、こいつさっきから米一粒ずつしか食ってないんじゃないか?
「食欲ないなら無理に食わなくていいけどな、食っとかないと体力もたないぞ、雑用」
「ひ、日吉は一言余計だよ…食欲ないっていうか、疲れちゃってさ。
お腹すいてるのに、変だよねぇ」
あははと乾いた笑みを浮かべる。
そうか、こいつは。
「…大丈夫だ」
「え?」
「お前が言ったんだろ。言われたことやっときゃなんとかなる。
不安になる必要なんてねえんだよ」
不安でないわけがない。
ましてや財前に言われた言葉はこいつにとって初めての言葉ではなかった。
気丈にふるまってはいるが、それほどタフでないことを俺は知っている。
「そ、だね。うん、やっぱり緊張してたのかも。
ごちゃごちゃ考えるなんて私らしくないよねぇ。
ありがとね、日吉」
はやくいつものお前に戻れ。
でないとどうしてか、俺まで調子が狂うんだ。
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