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委員会の仕事のはずが、とんだ面倒なことになってしまった。俺は頭を抱えた。
その日の部活で、七瀬が臨時マネージャーとして合宿に来ると聞いた時の忍足さんの嫌な笑みが頭を離れない。
さらに、今回は青学、立海、そして、夏休みを利用して東京に来ている四天宝寺との合同合宿。
何事もなく1週間が終わるのを祈るばかりだ。

しかし、当の七瀬はというと。


「日吉!見てみてすごい!海!海なんて何年ぶりかなぁ」

「…………」

「ちょっと日吉?せっかくこんなにいい天気なのに何ぶすっとしてんの」


誰のせいだと思ってるんだ、誰の。


「お前、自分の置かれてる状況がわかってるのか?
あの時は真っ青な顔してたくせに…何をやらされるかもわかってないだろ」

「そりゃ、そうだけど…マネージャーって言ったって、合宿のマネージャー、つまり雑用でしょ?
各校から一人ずつサポート係りが出るらしいし、言われたことやってたらなんとかなるって」

「まったく…お気楽な奴。ま、俺もそのサポート係だからな。
精々お前がヘマしないように見ててやる」


何を吹っ切ったのか、なんとも楽観的な七瀬の様子にため息が出る。
これは合宿だ。他校のマネージャーはみんな男だし、つまりは男所帯。
女一人じゃなにかと不便なところもあるだろうに、考えが足りないんじゃないか。


「ヘマなんてしませんよーだ」

「まぁまぁさくらちゃん。日吉は、さくらちゃんの事が心配なんや」

「忍足先輩!」


突然現れた忍足さんに、思わず体を引く。
忍足さんは、両手でさくらの肩を抱くと合宿施設の方へ促した。
セクハラですよ、それ。口でこの人に敵いっこないことはわかっているので、言葉にはしないでおく。
イライラしながら俺も合宿施設へ入り、部屋のキーを受けとると、跡部部長と青学の手塚さん、立海の幸村さん、四天宝寺の白石さんからサポート係の招集がかかった。


「疲れているところすまない。立海の幸村だ。
練習は明日からになるけど、各校の部長とマネージャー、そしてサポート係でミーティングを行おうと思う」

「手塚だ。青学にはマネージャーがいないからな、サポート係を二人ださせてもらう」

「四天宝寺中部長、白石や。よろしゅう」

「おら、とっとと始めるぞ」


そこから、跡部部長の進行でマネージャーとサポート係の自己紹介を行っていく。とは言え、よく知った学校の選手だ。
青学のサポート係は海堂と越前、立海は切原、四天宝寺は財前、そして氷帝は俺。
どの学校も2年生以下から出ていた。


「氷帝のマネージャー、女かいな。ミーハーなばっかで仕事できんかったら困るんやけど」

「こら財前!」

「………っ」


財前の、突き刺すような言葉に七瀬が息を呑んだのがわかった。
こいつの言うことは最もだ。氷帝のテニス部が女子に人気があるのは他校にも有名なことで、仕事のしない部員目当てのマネージャーではしょうもない。
七瀬がどんな人間で、これまでどんな目に遭っていたかは俺と跡部部長、忍足さんくらいしか知らないだろう。







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