耳につくのはセミの鳴き声。地面からゆらゆらと立ち上る陽炎が見える。
しかし、俺たちがいる部屋はそんな外の暑さなんてまるで感じないくらいに冷房が効いていて、背中には冷や汗が伝っていた。
「で?何が聞きたいんだ、アーン?」
目の前でふんぞり返って座っているこの男こそ、氷帝学園の生徒会長、跡部景吾。
そして、俺が所属するテニス部の部長。
新聞部と報道委員会の合同企画のため、俺と七瀬は跡部部長にインタビューをすることになっている。
「えっと、その、でふね…あっ違う、そのですね」
「…………」
「この学園についてどう思います、か…?」
「アーン?そうだな、洗練されたカリキュラムと一流の教員による教育を期待できると共に生徒の自主的な活動を促す設備が充実していて尚且つ―――…
お前もそう思わねぇか?」
「え、あ、はい、そうですね…?」
突然ぺらぺらと話し出した跡部部長に七瀬は慌ててボイスレコーダーを回す。跡部部長は、七瀬がまったく理解できていないことを分かっているようにくつくつと笑う。
「ところで…これは報道委員の仕事なんだろ。彼女一人にやらせていいのか、日吉?」
「い、言われなくても…!」
急に話を振られた俺はあからさまに表情を歪める。なんともやりにくいインタビューだ。
一通り、当たり障りのないことを聞いてインタビューは滞りなく終わる。
七瀬が、部長に礼を言って退室しようと背を向けたそのとき。
「お前、料理部らしいな」
唐突に投げ掛けられた言葉に思わず足を止める。
今日のインタビューのことは事前にアポを取ってあるし、部長が七瀬さくらという生徒について調べただろうことは安易に想像できる。
そうすれば七瀬が料理部だということも知ることは容易だが、部長がそれをいまここで話題に出す意図が汲めなかった。
「跡部さん、急に何を…」
「お前は黙ってろ、日吉。で、どうなんだ、アーン?」
「…たしかに、わたしは料理部に所属していますが…」
「先日の調理室汚損の件、俺様の耳に入ってないとでも思ったか?報告書が未提出なのはどういうことだ」
今日何度目だろうか。俺の背中に、冷たい汗が伝った。
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