Distance
16




今日の日吉は、なんだか朝からおかしかった。
妙にそわそわして落ち着きがないというか、私と話していても上の空だと感じることも多かった。
そして今も、


「日吉?」


呼びかけても返事がない。ぼーっと黒板の方向を見つめているだけだ。
こうなったら、正面から日吉の視界に入りこむしかない。


「日吉ってば!聞いてる!?」

「うわっ!?」


そこで日吉はやっと呼ばれているのに気づいたらしい。
ガタッと椅子を鳴らして身体を後ろに引いた。


「なんだよ、急に」

「急にじゃないでしょ!さっきからずっと呼んでるのに。
ぼーっとしてるなんて珍しいね。なにかあった?」

「別に…で、なんだよ?」

「今日は委員会の活動日でしょ?行かないの?」

「あ…ああ、そうか…そうだな」


いつもなら委員会の日を忘れたりなんてしないのに、今日はやっぱり様子がおかしい気がする。

…具合でも悪いのだろうか?

荷物をまとめると、日吉と一緒に会議室へ向かう。
会議室の扉を開けると、委員長はすでにホワイトボードの前で準備を始めていた。


「2年F組、遅いよ!」

「す、すみませんっ」

「…すみません」


委員長に軽いお叱りを受けて席につく。
私たちが最後だったらしく、他の報道委員の視線を受けてしまい少し気まずかった。


「今日は、夏休み明けの校内新聞の取材について…」


今年の報道委員は、夏休みに取材をしたものを新聞部と合同で校内新聞にするらしい。
委員長が分担したクラスごとの取材内容をホワイトボードに書き記していく。
私と日吉、つまり2年F組の取材内容を見て私たちはほぼ同時に声を上げた。


「"跡部景吾インタビュー"…」


生徒会長であり、日吉が所属する男子テニス部の部長を努める跡部景吾先輩に、インタビューをすることになってしまったのだ。
日吉にとっては所謂「下剋上」を掲げている相手であり、私にとっては近づくことすらおこがましい「生徒会長」だ。


「勘弁してくれよ…」

「日吉、何か言った?」

「い、いえ…」


委員長の有無を言わさぬ視線に、不平を漏らしかけた日吉も黙ってしまう。

このインタビューをきっかけに、私と日吉の関係が大きく変わることになるなんて、この時は想像もしていなかった。




[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!