今日の日吉は、なんだか朝からおかしかった。
妙にそわそわして落ち着きがないというか、私と話していても上の空だと感じることも多かった。
そして今も、
「日吉?」
呼びかけても返事がない。ぼーっと黒板の方向を見つめているだけだ。
こうなったら、正面から日吉の視界に入りこむしかない。
「日吉ってば!聞いてる!?」
「うわっ!?」
そこで日吉はやっと呼ばれているのに気づいたらしい。
ガタッと椅子を鳴らして身体を後ろに引いた。
「なんだよ、急に」
「急にじゃないでしょ!さっきからずっと呼んでるのに。
ぼーっとしてるなんて珍しいね。なにかあった?」
「別に…で、なんだよ?」
「今日は委員会の活動日でしょ?行かないの?」
「あ…ああ、そうか…そうだな」
いつもなら委員会の日を忘れたりなんてしないのに、今日はやっぱり様子がおかしい気がする。
…具合でも悪いのだろうか?
荷物をまとめると、日吉と一緒に会議室へ向かう。
会議室の扉を開けると、委員長はすでにホワイトボードの前で準備を始めていた。
「2年F組、遅いよ!」
「す、すみませんっ」
「…すみません」
委員長に軽いお叱りを受けて席につく。
私たちが最後だったらしく、他の報道委員の視線を受けてしまい少し気まずかった。
「今日は、夏休み明けの校内新聞の取材について…」
今年の報道委員は、夏休みに取材をしたものを新聞部と合同で校内新聞にするらしい。
委員長が分担したクラスごとの取材内容をホワイトボードに書き記していく。
私と日吉、つまり2年F組の取材内容を見て私たちはほぼ同時に声を上げた。
「"跡部景吾インタビュー"…」
生徒会長であり、日吉が所属する男子テニス部の部長を努める跡部景吾先輩に、インタビューをすることになってしまったのだ。
日吉にとっては所謂「下剋上」を掲げている相手であり、私にとっては近づくことすらおこがましい「生徒会長」だ。
「勘弁してくれよ…」
「日吉、何か言った?」
「い、いえ…」
委員長の有無を言わさぬ視線に、不平を漏らしかけた日吉も黙ってしまう。
このインタビューをきっかけに、私と日吉の関係が大きく変わることになるなんて、この時は想像もしていなかった。
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