待ち合わせ場所に現れた七瀬を見て、俺は一瞬誰だかわからなかった。
学校で見るあいつと印象がまるで違ったからだ。
さっぱりしていて細かいことをあまり気にしない七瀬だから、私服もボーイッシュなものだろうと想像していたのだが、薄い桃色のワンピースを揺らし、いつもは下ろしている髪の毛を横で束ねていて。
なんというか、すごく女らしいと思った。
軽食をとるために近くのファミレスに向かっている途中、七瀬が俺の服をちょい、と引っ張る。
「ねぇ日吉、そういやなんの映画観るの?」
「先週公開されたホラー映画だ」
「………え?」
一拍の間をおいて返ってきた声には動揺が見て取れた。
「もしかして、ホラー苦手なのか?意外だな」
「えっ…に、苦手なわけないじゃん!そっそういえば日吉、七不思議系とかも好きだもんね」
明らかに強がりとわかる七瀬の言葉に、じわじわと加虐心が頭を擡げる。
俺はニヤリ、と内心で笑った。そうやって気丈でいられるのも今のうちだ。
「今日観る予定の映画はかなり評判がいいからな。ホラーが苦手な奴にはキツイかと思ったが…心配ないみたいだな」
「ま、まじ…?」
サアッと効果音がつくほどの勢いで青ざめる七瀬に、内心笑みをこぼす。
映画館で、こいつがどれだけ怖がるのか見物だな。
ファミレスに入り俺はサンドイッチ、七瀬は苺のパフェを注文する。
よく見れば、七瀬の顔は青ざめたままだ。
そんな顔で、よくパフェなんて重たいものを頼めるな。
「ひ、日吉…あのさ」
「今更やめる、なんて言わないよな。ホラー平気なんだろ?」
「も、もしかしてわかってて言ってるでしょ!」
「まあな」
「性悪、サディスト、キノコ」
「上等だ」
それに、最後のは関係ない。誰がキノコだ。
「私、ホラーだけは苦手なんだよね」
「じゃあ珍しいお前の怖がる姿が見られるってことだな」
「うわー、腹立つ。面白がらないでよ」
「手、繋いでてやろうか?」
「え」
冗談混じりにそう言った途端、七瀬の顔がぼわっと赤く染まった。
てっきり流されると思っていたのに、予想外の反応に俺まで顔が熱くなるのを感じる。
「あ、いや…その、ほ、本当に怖いなら…手でも握ってた方が怖くないかと思ってだな」
「う、うん…そ、そだね」
それからお互いに沈黙してしまい、店員が注文したサンドイッチとパフェを持ってくるまで無言の状態が続いた。
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