Distance
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日吉と仲直りをしてからというもの、私への嫌がらせはぴたりとなくなった。
それは多分、日吉の方から私に話しかけてくることが増えたからだと思う。

私が日吉に付き纏っているというミーハーな印象が消えて、ファンの子も私と日吉がただの友達であることをわかってくれたらしい。
かくして私は平和な日常を再び手にすることができたのだ。

いつものように屋上で二人、昼食を食べている時だった。
隣で相変わらず豪勢な弁当をつつきながら、日吉がおもむろに口を開く。


「七瀬、明日なにか用事あるか?」

「明日って土曜日だよね。部活も休みだし特に何もないけど、どうかした?」

「前から観たい映画があるんだが、一人じゃつまらないからな。お前に付き合ってもらおうと思ったんだ」

「映画?別にいいよ、暇だし。というか日吉こそ部活は?」

「部長と監督に用事があるらしくて、休みになった」


どうせ家にいてもスウェットで一日中ゴロゴロとニートのような生活をするだけなのは目に見えていたので、私は映画鑑賞の誘いを承諾した。

しかし私は、この時点で観る映画のジャンルを聞いておかなかったことを後悔することになる。












昨日は気持ちいいほどの快晴だったのに、今日は打って変わって鬱々とした雲が空を覆っている。
今にも雨が降りそうな空を恨めしげに睨みつけてから、用心のために小さな折りたたみ傘をカバンに入れて家を出た。

待ち合わせ場所にはすでに日吉がいて、私は少し早足で駆け寄る。
日吉は私に気づくと読みかけの本を閉じた。


「…思ったより早かったな」

「日吉こそ早くない?まだ10分前だよ」

「15分前行動は基本だろ」

「うわ、マメだねぇ…」


絶対遅刻とかしないんだろうな、とぼんやり考えていると日吉は腕時計に目を落とす。
シンプルな白いジャケットの袖口から除く黒の時計が日吉らしい、と思った。

そういえば、私服で会うのは初めてだった気がする。
日吉の私服姿は新鮮で、身長や顔立ちのせいか制服の時よりも大人びて見えた。


「まだ時間に余裕があるから、なにか軽く食べてから行こうと思うんだが、どうする?」

「うん、それでいいよ」

「じゃあ行くか」


そう言って笑った日吉の表情は今までに見たことがないほど柔らかくて、すごく綺麗だった。

ふぅん…そんな優しい顔もできるんだ。







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