まるで世界に二人だけ



「ただいま…」


日曜、家に来ると言う梨木のことを考えて、重い気分で家のドアを開ける。
パタパタとスリッパの音がして、クロームが玄関まで出迎えてくれた。


「お帰りなさい…颯太」

「クローム、ごはん食べた?」

「…あ、の…えっと」


俺の言葉に口ごもるクロームを不思議に思い俺がどうした?と聞くと、クロームは無言で俺の制服の袖を掴むとリビングまで引っ張った。


「…え」


テーブルの上には、いびつな形をしたおにぎりと、お椀に入ったスープのようなものが二人分並んでいた。


「これ、クロームが作ったの?」


聞けば、俺に日ごろのお礼をしようと台所にあった料理の本を見て、自分で作れそうなものを作ったのだと言う。


「あの、初めて作ったから…あまり美味しくないかもしれないけど…」


顔を真っ赤にして言うクロームは堪らなく可愛くて、勢いに任せて抱きしめてやりたかった。
けれど、そんなことをして嫌われるわけにはいかないので、俺はクロームの頭を優しく撫でるだけにする。


「ありがとう、クローム」


部活で疲れた身体にじんわりと温かいものが流れたような気がした。

























「…んまい」

「ほ…本当…?」

「うん、美味しいよ。まじでありがとな」


ちゃんと出汁もとってある味噌汁は嘘じゃなく美味しかった。
おにぎりは、白米を握っただけなので美味いも不味いもなかったが。

なにより、クロームが俺のために作ってくれたことが素直に嬉しい。


「あの、私…もっと頑張って、颯太の力になりたい」

「…え」

「颯太は…私の恩人だから。颯太がいなかったら私、今頃ひとりぼっちだった…。
だから、颯太のために…少しでもできることをしたいの。こんなことしか、できないけど…」


途切れ途切れながらも、珍しくよく話すクローム。
クロームがそんな風に思っていたなんて知らなくて、自然と俺は笑っていた。


「気持ちはすごく嬉しいよ。でも、俺はクロームに恩を売るつもりで君をここに住まわせたわけじゃない。
だから恩返しとか考える必要はないんだよ」

「…でも」


「そうだな、それでも俺に何かしてくれるって言うなら…笑顔でいてよ」


俺の言葉を聞いたクロームはキョトンと首を傾げた。


「クロームが笑っていてくれることが、俺にとって最高の恩返しだから」


この一ヶ月、クロームと過ごして俺の心には確かな変化があった。
彼女のふとした笑顔に癒されたり、黒曜を思い出した時の寂しそうな顔に心苦しくなる。
学校にいる間に、家に残したクロームのことを思い出して胸がざわめいたりもした。

この感情の名前を俺は知っている。
俺はいつの間にか、クロームのことを好きになっていた。







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