君が笑顔でいられるように


「じゃあ、学校行ってくるよ。
今日から帰りが遅くなるから、ご飯はカボチャ煮といたからそれと、冷蔵庫の中のもの食べて。きちんと栄養考えろよ。
あ、あと出かけるときは帽子をかぶること。鍵をきちんとかけて。
あとそれから…」


クロームがクスッと笑った。


「颯太、お母さんみたい…」

「えっ」

「大丈夫…言われたこと、きちんと守るから…いってらっしゃい」


かあっと顔が熱くなった。
極上の笑顔つきで美少女に「いってらっしゃい」なんて言われたらイロイロとまずい。


「う、うん。行ってきます」


今日から俺は美術部のコンクール二週間前。
絵を仕上げるために遅くまで学校に残らなくてはいけない。
本当は早く帰ってクロームにごはんを作ってあげたいけど、今度のコンクールは俺にとってとても大事なコンクール。
外すわけにはいかなくて、泣く泣く冷蔵庫のものを適当に食べさせることにしたのだ。
まあ、変なものはおいてないし大丈夫だろう。

クロームとの不思議な同居が始まって、一ヶ月が経とうとしていた。
























「中宮くん、最近嬉しそうだよね」

「へ?」

「笑顔が増えた気がしてさ」


部活中、隣でデッサンをしていた女子に話し掛けられた。
彼女は梨木くるみ。学年で1番の美人ともっぱらの評判で、同じクラスだ。


「そ、そうか?いつも通りじゃないかな」

「さては、彼女でもできたの?」

「なっ…!何言ってんだよ、そんなわけないだろ」

「ふーん…」


意味ありげに笑う梨木。
俺が彼女の言う通り、笑顔が増えたのだとしたら、その理由は十中八九クロームのことだろうけど…
美少女、しかも漫画のキャラと同居してるなんて言うわけにはいかない。
言ったとしても、俺の妄想だと思われるのがオチだ。


「ね、中宮くん」

「ん?」

「甘いもの好き?」

「まあ、そこそこ」

「駅前に新しいクレープ屋さんできたの知ってる?」

「うん」

「あそこね、スッゴく美味しいんだよ。この前行ったんだけど、ほんとに美味しいの」

「へー」

「今度の日曜、一緒に行こうよ」

「は?」


思わず間抜けな声が出た。


「ね、行こうよ。部活もないしさ」


日曜だろうが月曜だろうが、俺は学校とバイト以外の目的で外に出る気はない。


「いや、日曜は…」

「忙しいの?」

「そういうわけじゃ…」


ああ、俺の馬鹿!
嘘でも忙しいといえばよかったのに、馬鹿正直な自分を呪った。

空気を読まず、最終下校のアナウンスがBGMに流れる。


「じゃ、行こうよ。日曜日、中宮くんの家に迎えに行くね」

「ちょっ…」


俺が返事をする間もなく、梨木はぺらぺらとしゃべり立てると美術室から姿を消した。


「やべー…」


梨木がうちに来るという事は、クロームと住んでるあの部屋に来るということ。
クロームと梨木を鉢合わせにするわけには行かない。

というか、何故梨木は来たこともない俺の家を知ってるんだろうか。


いろいろなことが頭をぐるぐると回るが、いよいよめまいがして来たので俺もおとなしく帰ることにした。





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