7.約束はいつも果たせないの


「…ここが、現世…?」

「さくら、現世に来た事ないのか?」

「統学院の実習で来たきりで、現世での任務は初めてなの」


私の言葉にふーん、と生返事を返し、一角は伝令神機を取り出してここの管轄である死神に連絡する。
現世の人には死神の姿は見えない。刀を腰に差して宙に足をつけている私たちを気にかける人は誰もいない。


「こちら十一番隊三席斑目一角。救援に来た、現在地は?」

「一角…あそこ見て!」


あたしが指差した先には三体もの虚<ホロウ>相手に一人で抵抗する死神がいた。
死神に怪我はないようだけれど、あまり大きい虚ではないということは、何か特殊な能力を持っている…?


「空野四席に…斑目三席!」


一角は瞬歩で駆けつけると、解号とともに鬼灯丸を解放する。
あたしも、斬魄刀―――華乙女を抜いた。


「咲き誇れ、華乙女」


解号を叫べば金盞花の花びらが舞い、その刀身が偃月刀に変わる。
そして、一角と同時に虚のうちの一体に斬りかかった。
刹那、視認していた虚の姿が薄くなり華乙女の太刀をすりぬけた。


「えっ!?」

「それです、その虚の厄介な所は。斬りかかってもすりぬけてしまって…
おかげで先ほどから一太刀も入れる事ができないんです」


管轄の死神が言う。
どういう能力なのか判別がつかない。鬼道なら効くのだろうか?
思案を巡らせるために一瞬、虚から意識をそらしたのがいけなかった。


「バカ、さくらっ!余所見すんな!」


一角の声が聞こえた次の瞬間。背中に強い衝撃を受けた。
肩から背にかけて、死覇装と皮膚が斬られたのだとわかる。


「…さくらっ!」


一角が視界の端に写るが、すぐに地面に叩きつけられ、全身の感覚が奪われた。
血が止まらない。背中が…焼けたように熱い。

―――ほら、一撃でやられるほどに、弱い。
やっぱり私は、隊長に頂いた席次に見合うような実力なんて持ってはいないんだ。
そう考える頭はひどく冷静だった。

虚と戦う一角と死神の青年が視界の端に映る。
その時、私は違和感に気づいた。あの虚…動きが左右対称だ。


「…市丸隊長…」


―――"無茶したらアカンよ"


穿界門を潜る直前に市丸隊長と交わした言葉が脳裏に浮かび上がる。
…ごめんなさい、市丸隊長。約束、守れそうにないです。


「もしかして…!」


動かない身体を無理やり起こす。
虚に感づかれないように背後に回り、頭からちょうど真ん中を断ち斬った。
手応えがある。断末魔を上げて今度こそ虚は消えた。
あと…2体。


「さくら!大丈夫なのか!?」

「うん…あの虚、 どういうわけか実体は中心の部分だけで、体は幻覚かなにかで出来てるんじゃないかな」

「…そんなことがよく分かったな」

「だから、ちょうど真ん中を―――…!?」

虚の1体と対峙する一角の背後に、もう1体。
いけない、一角を狙っている…!


「一角…!危ないっ!」


何も考えていなかった。ただ飛び出して、一角の背中を押す。
次の瞬間には、私の身体は虚に貫かれ、意識が遠ざかっていった。


(言いたかったこと、伝えられそうにないな)
(市丸隊長の顔が頭をよぎった)



[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!