5.名前、呼ばれたいねん


さくらは、ボクの下で肩を上下させてぐったりとしていた。
肩に張りつく綺麗な髪をそっと指で払う。


「…ご免な」


ボクはさくらのナカから自分の欲を抜いた。
さくらが"隊長"に逆らえないのを良いことに、半ば無理やりのように情事に及んでしまったのだ。
これではさくらを傷つけた死神たちと大差ない。


「たいちょ…隊長…」

「さくら、ホンマご免な」

「いい…です、隊長…謝らないで…」


隊長と呼ばれる度に、ボクは胸が痛いほどに締め付けられる。
所詮さくらとボクは隊長と四席、上司と部下でしかいられない。

ボクは、ただそんな関係に耐えられへんかったのかもしれない。
けれど、さくらの体だけを手に入れても、それは無意味や。

心が欲しい―――さくらの心が。


「…ありがとうございます」

「―――え?」


なんで、彼女が礼を言うたのか、ボクには分からんかった。
ボクは彼女の信頼を裏切った。彼女の身体を無理矢理暴いた。
恨まれこそすれ、感謝の言葉をもらう道理も資格もあらへん。


「市丸隊長といると、安心できるんです。隊長は、私の中に燻っている黒い塊を洗い流してくれる…
名前も知らない方たちに無理矢理されて、とても怖かった…けど、隊長なら…隊長になら…」

「さくら…」

「市丸隊長、私―――」

「隊長やない」

「え…」

「今は職務時間外や、隊長なんて他人行儀な呼び方はナシやで」


ボクがそう言うと、さくらは微かな笑みを浮かべて言った。


「ありがとうございます、ギ…市丸さん」

「…!」


その笑顔は反則や。
言い直したりせぇへんでそのままギンて呼んでくれてもええんやけどな。
さくらは真面目やから、ボクが許しても自分が許されへんのやろか。
不意にさくらが、ふっと布団に倒れ込む。


「さくら…!?」

「大丈夫、です…少し眠いだけ」

「そか…無理させてしもたもんな。ええよ、ゆっくり休み」


さくらの瞼がくっ付いていく。


「…市丸隊長……すき、です……」


さくらが眠りに落ちる間際、寝言のように呟いた言葉にボクは耳を疑いそうになった。
けど、ボクが彼女からその言葉を再び聞くことはなかった。




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