3.キミの事守りたいんや


最近、さくらの様子がおかしい。
元々ぽけっとした感じの子ォやったけど、ここんとこずっと何を言うても上の空な気がする。

上の空っちゅうか、ふさぎ込んでる。
なんや…心配事でもあんなら、ボクに相談してくれたらええのに。


「さくら、何か悩んどるんと違う?」

「べ、別にそんな事は…ありません」

「嘘やろ」


少しキツく言うと、さくらの肩がビクッとはねた。
怖がらすつもりはなかってんけど、ボクに隠し事するさくらが悪いんやで。


「隊長に嘘なんかついてええと思う?」

「思いませ、ん」

「ならホンマの事言い。さくら、ボクに何か隠しとんのやろ?」


下を向いてしばらく黙っていたさくら。
言いづらい事なのか、何かを言い掛けては口を噤む、の繰り返し。


「隊長の手を煩わせるほどのことでは、」

「それは聞いてから判断するわ」


さくらの手を引いて歩き出す。


「ボクの部屋おいで」


ボクは、さくらがゆっくり話せるように自室に招き入れた。
別に疚しいことするつもりやないで。


「―――私が四席である事を、気に入らない人たちがいるんです」


畳に正座すると、さくらは唐突に話し出した。
心なしか肩が小さく震えている。


「四、五日前に呼び出されて…いたのは、三番隊の女性隊員の方たちと…あと男性の隊員が、何人か」

「…何か、されたんか?」


さくらはその先を言おうとしなかった。
黙って死覇装の袴を握りしめている。その袴にポタリ、涙が落ちた。


「…っう、たい…ちょ、市丸、隊長…っ」

「さくら…ボク怒ったり誰かに言ったりせえへんから、言うてみ…」


安心させるように優しく背中に手を回してさすってやる。
すると、さくらは急に、ボクの襟元をすがるように掴んだ。


「…四席を、降りろって…何も言い返せなくて…そしたら男の人が、降りないならって、無理やり…っ…
隊長…あたし、どうしたらいいのか…」

「…まさか」


さくらが言わんとしている事に容易に想像がついた。
ごめんな、と言ってから死覇装の襟元をはだけさせる。
そこには生々しい紅い痕。死覇装に縫い付けられている隊章にも、赤く血のような染みが滲んでいる。
かなり乱暴にされたのか皮が所々剥けて、血が滲み、痛々しい刻印となっていた。


「…さくら…処女、やったんか?」


さくらは震えながら小さく頷く。
漆黒の瞳からは、冷たい悲しみの滴が止め処なく流れ落ち、ボクの羽織りを掴んでいる白い指は震えている。

ボクは自分の胸が、怒り、悲しみの入り混じった汚い感情に支配されていくのを感じた。


キミの事守りたいんや


(それは言えへんかった言葉やけど)


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あきゅろす。
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