2.目もアカン、声もアカン、全部好き


「それでですね、その時松本副隊長が…」


仕事の話から他愛のない話まで、あんみつをつつきながら楽しそうに話すさくら。
ボクは、それに相づちを打つ。
さくら、ホンマに友達多いなァ。この交友能力はさすがにボクも敵わへん。

この小さな幸せが、ボクにとっては何にも代え難い大切な時間。


「市丸隊長…なぜ吉良副隊長も呼ばれなかったんですか?
今日はせっかく定時でしたのに」

「さくらと2人きりがえかったんや。
それに、今はイヅルの話はナシやで」

「?」

「さくらのことも、聞かせてや。
最近ハマっとるモンとか、悩み事でもええで」


ボクの言葉に、さくらはじっとボクを見つめる。
綺麗な黒く透き通る瞳や形のいい唇。
その唇から紡がれる声も、全てがボクの心を捕らえて離さないんや。


「市丸隊長…」

「ん?」


急にさくらは眉を下げる。
浮かない表情もかわええけど、そんなこと言っとる場合でもなさそうやな。


「私、四席にいていいんでしょうか」

「…なんや、それ」

「この間隊員の方たちが話してるのを聞いてしまって…
私は市丸隊長もご存知の通り、斬魄刀の扱いも席官にすら及びませんし鬼道も得意と言えるほど秀でたものではありません。
隊長はなぜそんな私を四席…いえ、副官補佐に任命してくださったのですか…?」


誰や、そないな事言うたの。
一遍シバいたろか。

そうは思ったけど、目に涙を溜めるさくらを見て、その滴を止めるのが先やとさくらの頭を撫でた。


「何言うてるんや。さくらはよう仕事してくれとるやろ。こんな働きモンな子、他におらんで。
ボクが決めた事なんやから、キミが気にすることはあらへんよ。
そないな事言う奴らにも、気に掛けんと好きに言わしとけばええやろ?
ボクがキミを選んだんや、自信持ち」

「隊長…」


ボクはさくらの頬に片手を添えると伝う滴を親指で拭う。
一方彼女は、不安そうな顔でこっちを見た。


「ほら、もう泣かんと」

「はい…明日からまた頑張るので、よろしくお願いします」

「うん、頑張りや。さくらおらんとボクまた書類溜めてまうわァ。
せや、ボクのぜんざい一口あげるさかい、これで元気出し」


匙にすくったぜんざいを差し出す。
さくらは少し身を乗り出すと、ぱくんと口に入れて嬉しそうに笑った。


「えへ…なんだか隊長のおかげで元気出ました!
いつもありがとうございます、市丸隊長」

「かまへんよ。これからも、なんかあったら遠慮なく言うてな」

「はいっ」


果たしてキミは気づいとるんやろか―――今のが"間接キス"やってことに。


目もアカン、声もアカン、全部好き


(…市丸隊長、嬉しそうですね)
(さくらを元気づけよう思うたら、逆に元気にされてしもた)
(ちょっと、隊長!袴、袴が大惨事です!元気にってそういう事ですか!?)
(さくらが可愛すぎるのがアカンわ)
(末期だ…)




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あきゅろす。
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