17 なんで逃げるん


最近、どうもさくらに避けられとるような気がする。
あの事件があってから、なるべく彼女を一人にせんように布団もボクの部屋に敷かせ、ボクかイヅルか、仲のええ人と一緒におるように言っとる、けど。


「ボクと一緒にいたがらんねん」

「は?」


書類を届けにきとった乱菊にぼやくと、心底面倒くさそうに聞き返してきた。
いつもさくらのことを気にかけとる乱菊ならなにか知っとるかもしれへん。


「執務室にもようおらんし、雛森ちゃんか十一番隊のとこばっかで、話しかけても逃げられるしなんやボク嫌われてんかな」

「そうなんじゃない?あんた、さくらに変なことしたんじゃないでしょうね」

「してへんしてへん」


心当たりがない。人に好かれることに関してさして執着もないボクやけど、さくらに嫌われることだけはホンマに堪忍して欲しい。
何か、原因があるはずや。


「あんた、さくらが記憶なくしてるってこと忘れてるわけじゃないでしょうね?
前みたいな接し方してたら怖がられても無理ないわよ」


そう言うと乱菊は、ボクの机の上にある干し柿を1つとって、ヒラヒラと手を振って隊舎を出ていった。



「前みたい、なァ…普通にしとるつもりやけど」

「空野さんに関することとなると、市丸隊長も形無しですね」

「そない言わんとってや、李空。本気で悩んどるんやから」


ボクの分のお茶を机に置きながら、くすくすと笑みをこぼすのは三番隊の三席、戸隠李空。
置かれたお茶を一口すすってため息をついた。


「彼女が何を思って隊長や副隊長と距離を置かれているのかは図りかねますが、やはり直接話をされた方がよろしいかと」

「それができたら苦労せんわ。
捕まえようとしてもすぐ逃げられてまうんや」


ほんま、何考えとんのやろ、さくらは。
再び湯飲みに口をつけたそのとき、隊首室の入口から彼女の姿が見えた。
噂をすればですね、と呟く李空を横目に、ボクは部屋を飛び出す。
さくらもボクに気づき、ぱっと慌てたように駆け出した。

逃がさへんよ。なにがなんでも。
さくら、さくら、さくら。


「さくら…!」


やっと、細い手首を掴む。
荒く息をするさくらは目にうっすらと涙を浮かべていた。


「離してください…市丸さん」

「そんなにボクのこと、嫌いなん」

「そんなこと…!」

「ほんならなんで逃げるん」


ぐ、と言葉につまるさくら。
黙りこくったまま、ふい、と目線を逸らしてしまった。
こんなこと、前にもあったな。さくらを初めて抱いた日。
隊士に暴行されたことをなかなか言い出せんと、ずっと部屋で向かいあっとった。


「ボクんこと、嫌いなんやなかったらなんで逃げるん」

「…い、言えません」

「ほんなら、隊長命令」

「そんな…っ」


ぽろぽろと涙をこぼすさくらを見て、僅かに罪悪感が沸き上がるが、引く気はさらさらなかった。
意地悪な隊長でかまへん。理由が知りたいんや。
うつ向いたまま、さくらはぽつりぽつりと口を開く。
意識を研ぎ澄ましてやっと聞き取れる声だった。


「私を四席に配属してくださったのは、市丸、隊長や、イ…吉良副隊長に私が…私が身体を差し上げていたからというのは…本当ですか」










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