15.昔の話でもしよか


ボクとさくらが初めて出会うたのは、彼女がまだ統学院の一回生の頃やった。
その日彼女のいる特進クラスは裏山での擬似下級虚を使った実習があり、ボクとイヅルはその実習監督と特別講師として呼ばれとった。


「―――以上が、虚との戦闘において注意すべき点です。
質問がなければ、教室で引いてきてもらったくじに従って僕、吉良と市丸隊長の二組に別れてくれ」

「ほな、ボクの組の子たちはこっちおいでな」


その時の実習、さくらはボクの組で、なんや斬拳走鬼どれをとってもパッとしない子やと思ったのを覚えとる。
けど、ボクが彼女に興味を持ったのもその実習の時やった。
その危なっかしい刀捌きはどう見ても特進クラスの学徒のものではなく、首をかしげたその時やった。


「―――破道の十一、綴雷電!」

「なんだ空野の奴…何してんだ…?」


彼女の唐突な行動に周りはどよめく。
浅打に鬼道を纏わせ、未熟な斬術を補うという誰もが思い付きもしなかった方法で彼女は擬似虚を倒してしまった。
そのとき、気づいた。彼女の本当の能力は戦闘力でも鬼道でもない。
その発想力と思考力、言うなれば頭の良さ。それこそが彼女の武器やと。


「いやァお見事。キミ、おもろいこと考えるんやな。
もうちょい強うなれば充分護廷隊でやっていけるんちゃう」

「…っほ、本当ですか!ありがとうございます!」


パッと顔を輝かせてボクに頭を下げたさくらの笑顔が忘れられへんかった。
ボクが統学院に教えに行ったんはその一回きりやったけど、彼女のことがずっと気にかかり、たびたび講師として学院に行くイヅルにさくらの様子を聞いとった。


「空野さん、実技は平均的ですがとても斬新な発想をする子なんです。
観察眼はあるし頭もいいみたいで、筆記だけならいつも最上位みたいなんですけど」

「ほんま、おもろい子やなァ。あんな子が三番隊に入ってくれたらええと思わへん?イヅル」

「え?ええ、まあ…」


ボクも、時間がある時は散歩がてらさくらの様子を見に行ったりしていた。
彼女はボクが顔を出すと、いつも緊張しとるのかガチガチになりながらももっと強くなるには、もっと鬼道を上達させるには、とボクに訊いてきた。
彼女と話すのは、心地がよかった。

それから六年がたち、さくらは護廷隊の入隊試験に合格。配属されたのは、九番隊やった。
なかなか会いに行ける距離でもなく、彼女も席官ではないながらも常に忙しゅうしとったみたいで、結局護廷隊に入ってからの彼女に会うことはなかった。

あの日までは。




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あきゅろす。
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