13.護れなくて、ごめん

ようやく発見した彼女は、ひどいありさまだった。
原形を留めていない死覇装を申し訳程度に身体に巻きつけ、乾ききった欲望が身体に張りついている。
暴力も振るわれたのだろうか、剥き出しの肩や脚には赤黒い痣…に、火傷の痕?


「鬼道の痕跡…なんてひどいことを」

「……イヅル、さくらんこと隊舎に運んどいて」

「は、はい…しかし…隊長は?」

「すぐ戻るよって」


いつもと変わらない声色だったが、それでも長年彼に従ってきた僕には痛いほど彼の胸中が読み取れた。
市丸隊長は本気で怒っている。飄々として掴み所のない彼が本気で怒るところを初めて見た。
隊長は白い羽織で空野くんの身体を包むと、僕に預けた。
柔らかい身体とは裏腹のその軽さに思わず息を呑む。


「そのままやと気持ち悪いやろからお風呂入れたって。死覇装の替えもな」

「…はい」


口調は穏やかだが、言葉の端々に鋭く突き刺すような霊圧が籠っている。
隊長を一人にしていいものかと一瞬ためらうが、上がり続ける霊圧に、僕は瞬歩で隊舎に戻った。

一先ず、ソファに彼女を横たえ浴室の湯船に湯を張る。
彼女の身体に張りついている男の精を見ていると吐き気がした。


「……ん」

「空野くん!目が覚めたのか」


空野くんは自分が今いる場所、そして僕の存在に気づくと頼りない死覇装をかき集めて身を縮める。
表情を歪め、今にも泣きそうだ。


「あ…イヅルさん…あの、私…っ」

「何も…言わなくていい。
身体、気持ち悪いだろう?湯を貼ってあるから洗い流してくるといい」

「は…はい…」


そうして真新しい寝間着に袖を通した彼女を、応接室に敷いた布団に横たわらせた。
ここから彼女の部屋は少し遠い。僕や隊長の目の届く場所にいた方が安全だろう。
恐怖が甦ってきたのか、きゅっと眼を閉じて布団を握り締める彼女の手に恐る恐る触れる。
目を閉じて感覚を澄ますと遠くで市丸隊長の霊圧を感じた。
彼女をこんな目に遭わせた隊員たちは…きっともう生きてはいないんだろうな。


「ごめん…何も気づけなくて…キミを、護れなくて」

「違います…!わたしが足手まといなのがいけないんです。
記憶も戻らないし、仕事もできない…そんな私がここにいさせてもらってること自体が図々しいんです…」

「そんなことないよ。キミは記憶を無くしてもなお僕たちを全力でサポートしてくれているし、とても助かっている。
僕と市丸隊長が、キミを特席として残して欲しいと言ったんだ。自信もっていいよ」

「……!」


突然、目を見開いて動きを止めた空野くん。
いけない、なにかマズイことを言ってしまったのだろうか?
けれど次の瞬間には、なんでもないです、と彼女は首を横に振った。


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