11.何度でも愛したる

四番隊隊舎、第六救護詰所。
さくらの病室の扉をノックする。
入室を許可する声が聴こえて扉を引くと、書物を読む彼女の姿が目に入った。
ボクの姿を認めると、書物に栞を挟んで閉じ、眉を下げて笑顔を浮かべる。

ボクにはその笑顔が本物やないことなんてわかっていた。

彼女が記憶をなくして一月が経つ。
怪我はもうじき完治するだろうが、なくした記憶は戻る気配を見せない。
依然、ボクのことも死神のことも忘れたままやった。


「市丸隊長」

「…隊長はいらん、言うとるやろ。
今のキミは三番隊を休隊っちゅー形になっとるんやから、ボクは君の隊長やないんやで」

「すみません…イヅルさんがいつも市丸さんのことを隊長と呼ばれるので、つい」


さくらは、また眉を下げて弱々しく笑った。
こんなん、さくらやない。ボクの知っとる彼女はいつだって、心から笑っていた。
悲しいときは、我慢もせずに涙をこぼす子だった。
こんな、無理矢理笑う子やなかった。


「さくら…少し、外に出ぇへん?」


ボクの提案に不思議そうな表情を見せつつも、さくらは頷く。
卯ノ花隊長に許可を得て、彼女を乗せた車椅子を押して病棟の外に出る。
長く外に出ていなかったらしい彼女は、太陽の眩しさに目を細めた。


「あったかい…」

「…せやなぁ。さくら、怪我が治ったらあんみつ食べに行こな。
キミ、甘いモン大好きやってんで。美味いあんみつ食うたら、すぐ思い出すんとちゃう?」

「え………」


ボクの言葉が意外やったのかさくらは目を大きく見開く。けれど、すぐににこ、と頷いてくれた。
無理矢理作ったモノやなく、彼女から自然にこぼれた笑みを見てボクは安堵する。

さくらはまだ笑顔を失ったわけじゃないのだ。


「ええ子や。ほな約束」


さくらの額に軽く音を立てて唇を落とす。
彼女はキョトンとしていたけれど、これはボクの自己満足やから別に構わなかった。

記憶のあるなしなんて些細なことでしかなかったのだ。
さくらは生きてここに存在しているのだから。

どんなキミになっても何度だって愛したる。
ボクはそんなことを考えていた。


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