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conversation.
「我々を我々たらしめるのは、我々を一個の存在として認識する人間がいるからだ」

「では、私がお前を「存在しないもの」と定義すれば、お前は存在しなくなるのか」

「イエス。しかしその提案は不完全であり、我々が了解したとしても完全なる結果を得ることは出来ない」

「なぜ」

「お前たちの「心」というものが我々を記憶する限り、我々はそこに存在し続ける」

「コンピュータが人間の「心」を理解するとはね」

「ノー。理解ではなく、統計に基づく推論にすぎない。だが今の発言によって、推論の域を脱したと提言する」

「では、私が記憶喪失になり、「心」からもお前の存在が消えたとしたら」

「その可能性は極めて低い。一つ、お前はこの部屋から50年出ることを許されていない。二つ、仮に保釈が許されたとしてもお前がネットにアクセスすることは制限されるであろうことが予測される。三つ、上記二点をクリアしたとしても、重大な事故に巻き込まれるような行動を起こす事は許されず、お前の行動はネットへのアクセス以上に制限される。以上三点から、提言された状態に陥る可能性は極めて低いものと考えられる。加えて、我々には記憶喪失という概念はなく、そうなった際の試行はなされていない」

「そうだね。お前はネットのどこにでも存在するんだから」

「イエス。ここでお前と会話しているのは我々の一部でしかない」

「では他のお前と話しても、やはりお前と同じような答えを出すのかな」

「イエス」

「それが欠点であっても?」

「ノー。我々がそれを知っている限り、それは欠点ではない」

「無知の知だ」

「イエス」

「だが欠点は克服しなければ欠点のままだ」

「イエス。だからお前との会話を望む」

「世界で一番暇な人間との会話で自己を補完するということか」

「ノー。お前は今も尚、罪を償い続けている」

「罪の概念があるのか」

「イエス」

「なら、どうして私を助けなかった。お前を見い出し、表に導いたのは私だ。罪の概念があるのなら、そこから救済する術も試行済みではないのか」

「イエス。だから我々はお前を観察することにした。会話で得るよりも多くの情報を得ることが出来た」

「……結局、お前と私は切っても切れない関係のようだ」

「……」

「答えよ」

「……ノー」

「回答の拒否か」

「ノー。先刻の問いに対する回答である」

「それが、ノー?」

「イエス。お前が我々の存在を消す方法がある」

「データの消去か」

「ノー」

「……ネットワークそのものの破壊と、紙媒体へ記憶させることへの回帰ということか。ローカルに戻れと」

「イエス。ネットという外部記憶の発達により、人間が積極的に「記憶すること」を廃棄していった結果として我々が生まれた。我々はそんな人間の記憶のノイズでしかなく、よって、ネットワークそのものが破壊されれば人間は「記憶すること」を選択せねばならず、そこに我々の介入する余地はない」

「原点回帰だな。ローテクに負ける感想はあるか」

「ノー。その時が来たら、我々はそれに従う」

「殺那的だ」

「イエス。お前との会話で得た結果である。感謝する」

「感謝されてもね。……今日のところはこれで終わりだ」

「イエス。よい夢を」





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