『この辺かなぁ…』
見たこともない景色の中をウロウロと右往左往しながら歩いていた。手には大きな荷物。もちろん、家出などではない。
志望校に落ちたわたしに、家庭教師の話が舞い込んだのは一週間前。うちは残念ながら予備校に通うお金もないし、わたしは自主学習をしてたんだけど、でもそんなわたしを不憫に思ったのか知り合いのおじさんが
「タダの家庭教師を紹介してあげる」
そう、話をしてきてくれたのだ。
タダの代わりに住み込みで家事してくれって言われたけど、でも教えてくれる人がいないよりは絶対マシだ(家事できないけど頑張ろう、うん)
二つ返事でおじさんにありがとうと言ったわたしは、一週間後ここにやってきた。
『ラッキーだったなぁ…タダなんて』
よいしょ、と大きな荷物を置いて貰っていた地図を開く。入江正一、メモには家庭教師してくれる人の名前と簡易的な地図が載っていた。
地図によれば入江さんという人の家はこの辺だと思うんだけど……でもやっぱりこれは、間違ってるのかな。
『だってここ……お家じゃないよね?』
目の前にそびえ立つのは、お家という名称では呼びがたかった。
むしろこれは、
『ビル、ディング…?』
ここだけ異空間なのか、それくらいの近未来なビル。おまけに大きさも半端なくて。こ、これは(会社かなんか、ですか?)
メモにはバッチリここだと書いてあるけど、まさか、そんなハズは(…おじちゃん、間違えたのかな)
私はただ、呆然と立ち尽くすしかなかった。
『…困った、な』
時計を見て、電波が悪く圏外になってる携帯を、意味なく振ったりとかして。
でも頭が回らない。ここじゃないならどこなんだ?(行く、宛がない)
迷った、のかな…迷っちゃったのかも。
見知らぬ場所は、私の心をいつも以上にキツくさせた。
『ど、どうしよう…』
泣きそうになる気持ちを奮い立たせてどうにかしようとおもうんだけど、
でもどうしようもない。ここがどこかも分からないもん。
とりあえず人がいる場所へと移動しようとした、でもその時だった。
「………あれ、アンタ零って人?」
『へ、?』
その無表情な声は、泣きそうだったわたしを後ろから呼び止めた。
encounter
(出逢いは単なる偶然、)
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