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(キヨテル×ミキ)


毎日忙しい私は仕事の合間に勉強をしなくてはいけない。一応義務教育は終えているけれど一般教養は大切だ、という理由で事務所から勉強が義務づけられている。

習っているのは国語だったり英語だったり歴史だったり。ご丁寧にすべての教科に専門の先生がついてくれている。
そして今日は大好きな先生が教えてくれる世界一大っ嫌いな教科の勉強だ。

机の上にあるのは「たのしいすうがく」という文字が書かれた教科書となにやら難しそうな問題集。これから行うのは私の天敵でもある数学の授業だ。

「キヨテルせんせー…お腹が痛いです」

「さっき美味しそうにお弁当食べてましたよね」

「あ、じゃあきっとお弁当があたったんです!これは早急に休養を取らなければ…」

「早急、なんて珍しく難しげな言葉を使ってますね」

「あ、ちょっとだけ見直しました?最近マネさんが使ってて。意味もばっちりですよ!」

「……お腹が痛いのは終わりましたか?」

ハッと気づいた時にはキヨテルせんせーが勝利の笑みを浮かべていた。早急ごときで調子に乗るとは扱いやすい人ですね、なんて嫌味がついてきた。
もう一度お腹が痛いと言っても絶対信じてもらえない。仕方なく私は大人しく席に座った。隣に座ったキヨテルせんせーの笑顔はいつもの三割り増しで黒い。そう見えてしまう。

「覚悟は出来てますね?」

さいっこーにいい笑顔で、キヨテルせんせーは私に死刑宣告(大袈裟ではない)を告げた。


数学の教材は未知の言語に支配されている(世界史で習った言葉の応用だ)。
キヨテルせんせーの口から出てくる言葉はまったく聞いたことがない。あるふぁとか、こさいんとか、しぐまとか。

当然地球人の私に未知の言語が理解できるわけもなく、試しに解かされた問題は一問も合っていなかった。

「………ミキさん」

「…………はい」

「僕の話、聞いてましたか?」

「はい!もちろん!」

「じゃあどうして一問も解けていないんですか。しかも掛け算から間違っています。九九も出来なかったら笑えませんね」

「九九ぐらい言えます!」

「7×8は?」

「59です!」

自信満々の答えに返ってきたのは大きな溜め息だった。どうやら間違えたらしい。小学生の時、九九は完璧だったはずなのに…人類の脳の衰退は思っていたより早い。

冷たいを通り越して蔑みにも似た目で私を睨むキヨテルせんせー。さすがに居心地が悪くなって必死に言葉を探す私。

「キヨテルせんせーの本職は小学校の算数の先生ですよね?」

「はい」

「どうして数学まで教えられるんですか」

「先生だからです」

にっこりスマイルのキヨテルせんせー。実に小学校の先生らしい優しい笑顔。眼鏡がほのぼの度アップのアイテムになっている。


私はその嘘くさい笑顔を壊すために眼鏡を奪った。


キヨテルせんせーの眼鏡には度が入っていない。流行りのオシャレ眼鏡というわけでもない。
それではなぜキヨテルせんせーが眼鏡を掛けているのか。それは素の性格を隠すためなのだ。

眼鏡を外したキヨテルの目つきは悪い。もっと言えば怖い。でもさっきの教師スマイルよりマシ。

「……なんのつもりだ」

「この眼鏡、私にも似合うと思います?」

「……さっさと返せ」

「そんなに態度悪いと眼鏡壊しちゃいますよ?」

「おいミキ!いい加減にしろ!」

怒って詰め寄るキヨテルにふわりと微笑みかける。一瞬固まるキヨテルは素直で可愛い。私の笑顔に弱いのがバレバレだ。

「さっきの九九の答え、わかりましたよ」

「ふざけてるのか」

「56ですね。合ってます?」

「…………」

「返事しないと眼鏡、」

「合ってる!」

苛々を募らせるキヨテル。いつもの余裕たっぷりな態度は眼鏡無しでは成立しない。
これ以上怒らせるのは本当に怖いので最後のイタズラに出ることにした。眼鏡を背後に隠してキヨテルに顔を近づける。

「正解しましたよね?」

「ああ」

「じゃあ、ご褒美にキスしてください」

返事も聞かずに瞼を閉じる。少し間が空いて観念したキヨテルの指が顎に添えられる。私は口の端に笑みを刻む。

柔らかい勝利の味を確信していた私を襲ったのは平たい衝撃だった。
変な悲鳴が漏れて後ろ手に持っていた眼鏡が落ちる。急いで瞼を上げてキヨテルを確認すると、彼はもう眼鏡を掛けていた。

「まったく…とんだ問題児ですね」

「うー…」

「九九が解けたぐらいでご褒美がもらえると思ったんですか」

「でもちょっとは揺らいだんじゃないですか?」

「………ご褒美が欲しければ、この問題集すべて解いてください」

それまでお預けです、と再び黒い笑顔を見せつけるキヨテルせんせーにさっきの動揺は欠片も感じられない。
でも問題集すべて解けるまでご褒美はお預け、なんてきっと無理だ。耐えられなくなるのは間違いなくキヨテルだろう。

(お預けを食らうのはキヨテルです)

脳内でキヨテルせんせーの間違いを訂正する。今度こそ真の勝利を確信した私は緩んだ口元をキヨテルせんせーに見えないよう隠して勉強を再開した。



(変身アイテムを利用出来るのは本人だけじゃないんですよ?)


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相互記念に
「†ラピウス†」のぴこさまへ!




あきゅろす。
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