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(カイトとリン)


ころころと器用に雪の上を滑る雪玉は、次第に大きさを増していく。
広々とした公園のグランドで黙々と雪玉を転がす作業を続けているのは小さな女の子だった。ベンチにはその少女を見守るように座っている青年が居た。

「大丈夫ー?」

青年が数十メートル先にいる少女に声をかける。彼の声に気づいた少女は大きく手を振った。大丈夫だ、と言いたいのだろう。
立ち上がりかけていた青年は浮かせた腰を再びベンチにもたせることになった。その間に少女は作業を再開していた。

青年は少女の頑固っぷりに小さく苦笑を零した。彼 女 が ひ と り で 作 る、と決めたのだからひとりで最後までやり遂げるだろう。

ぼーっと少女を眺めていた青年だったが、不意に視線を少女からベンチ横に変えた。
そこにあるのは一つの大きな雪玉。少女が転がしているものより倍は大きい。完璧な球体とは言い難い姿だが、それでもしっかり玉に見える。


ベンチの横で鎮座しているこの雪玉は青年と少女が力を合わせて作ったものだ。

初めは少女ひとりでも転がすことが出来ていたが、雪玉がそこそこの大きさになると、彼女だけでは上手く転がせなくなっていった。そこで少女は青年に手伝いを頼んだ。
することもなく、ただぼんやりと座っていた青年は快く彼女の願いを聞き入れた。

二人で雪玉を転がしている間、少女も青年もとても嬉しそうに笑っていた。
少女が納得する大きさにまで成長した雪玉は青年が座っていたベンチの隣に置かれることになった。重たくなった雪玉をやっとの思いで移動させたあと、少女は休む間もなく次の雪玉制作に取りかかった。しかし今度は手を貸そうとした青年の協力を拒んだ。

少女曰く“今度はひとりで作りたい”とのこと。

もちろん青年は心配したが、少女は心配をよそにせっせと二つ目の雪玉作りに精を出し始めた。
それがおよそ数十分前の出来事だった。


「お兄ちゃーん」

少女に呼ばれて青年は視線を声がした方へと向けた。彼を呼んだ少女はわりと近くにいる。
青年はすぐに立ち上がって少女の元へ駆けつけた。どうやらここまできて雪玉が動かなくなってしまったらしい。

二人で雪玉をベンチの隣まで運ぶ。最初のより一回りほど小さい雪玉を土台となる雪玉の上に乗せる。
あらかじめ拾っておいた木の枝や石を飾り最後にバケツを上に乗せると、ただの雪の塊だったものが愛くるしくなった。

少女と青年は手を繋ぎ少し離れた位置から完成した雪だるまを眺めてみた。

「なんか足りない気がする…」

「マフラー…かな」
「あ!そっか!でも用意してないね…」

せっかく頑張って作った雪だるまに足りないものを見つけた少女はとても残念そうな表情を浮かべた。それを見た青年はなんとかならないか、と首を傾げて案を捻り出そうとした。

首を傾げた拍子に彼の視界の端で空色のマフラーがふわりと舞った。

青年は繋いでいた手を離して雪だるまに近づいた。そして自分が巻いていたマフラーを外すと、それを雪だるまに巻き付けた。

「これでどうかな?」

「お兄ちゃん、マフラー要らないの…?」

「少しの間この子に貸してあげるだけだよ」

だから大丈夫、と少女に告げると彼女はやっと満面の笑みを浮かべた。

しかしその笑みはすぐに曇ってしまった。

「どうしたの?」

「雪だるま、ひとりじゃ寂しいよね」

「そっか…」

「しかもマフラーはお兄ちゃんのだし」

「どういうこと?」

「だってお兄ちゃん寂しがりじゃない」

再び浮上した問題を解決するために二人は黙り込んだ。先に動いたのはやはり青年の方だった。
彼は足下の雪を集めて手に取ると、それをある動物を象った形にし始めた。綺麗に成形したそれに小さな小石を二つ付ける。

「葉っぱを探してくるね」

「待って!」

青年を引き留めた少女は自分の髪を纏めていたリボンを解いて、青年作の雪うさぎにくくりつけた。
ぴょこんと跳ねたリボンがうさぎの耳代わりになる。少女は完成した雪うさぎを雪だるまの側に置いて誇らしげに笑った。

「お兄ちゃん雪だるまとリン雪うさぎの完成〜」

自分を見上げて笑う少女につられて青年も口元を綻ばせた。

さっきと同じように手を繋いだ二人はしばらくの間、自分たちの分身のような雪だるまと雪うさぎを眺め続けていた。


だるま
(来年の冬もまた)




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