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(本音デル×メイコ)


雨音がざぁざぁと世界を支配する。まるで、私を故意に孤立させるかのように。
時計の針は12時をいくらか過ぎている。真っ暗な部屋のベッドでうずくまり横になる私を窓から差し込む街明かりが照らしている。こんな日はわざと、カーテンを閉めずにいる。外界の灯りを取り入れることが、私を孤独にさせる雨音から逃げ出す唯一の手段なのだ。街灯の揺らがない光が、ヘッドライトの通り過ぎる光が、私は世界に取り残されたわけではないのだ、と教えてくれるような気がする。そんな幻想に縋りたくなるほどに、私は雨の降る夜が苦手だ。

眠れないまま時計の長針が一周した頃、玄関が開く音がした。来訪者が持っているらしいビニール袋のガサガサとした音が徐々に近づいてくる。寝室に入ってきたその人は手荷物を机の上に置いた後、迷わずベッドに腰掛けたようだった。反動で少し、体が動いた。

「起きてるんだろ」

少しだけ不機嫌な声だった。きっと私がなんの反応も示さないからだろう。いつものことなのに、毎回律儀に第一声は不機嫌だ。
話しかけられてようやく身体の向きを変えると、私を見下ろしていたその人と目が合った。眉間にしわが寄っているのは私が無視をしたからではなく、彼の標準装備だ(でももしかしたらいつもより2割増しで深いしわかもしれない)

「やっぱり起きてるじゃねぇか」

言葉とともにわしゃわしゃと乱雑に髪を撫でられた。抗議するようにその手を掴むとそのまま指先を絡められる。雨が降っている分、少し寒かったのか、彼の手はひんやりとしていた。男性にしてはいくらか細い指。けれどすっぽりと私の手を覆う大きさは、間違いなく男性のものだった。縋るように握る手に力を込めれば同じように握り返された。
しばらく握って、握り返されて、を繰り返すうちに知らず繋いだ手に向いていた視線を上げると、彼と目が合った。紫の瞳に微量な優しさの影を見つけた気がして心臓がざわつく。泣きたくなるような安心感を覚えて、思わず顔を俯かせた。
いつもは減らず口ばかりを互いに叩き合うだけなのに、彼は私が弱っているとタイミングよく現れては普段みせない優しさをくれる。そんな恋人と友人の境目をゆらゆらと漂うような関係が何年も続いている。いまさらそれ以上を求めることがないのは、お互いに臆病だからかもしれない。

しばらく繋いだ手だけに意識を向けていると、今度は柔らかく髪を梳かれた。最初はぎこちなく、何度か往復するうちに自然な手つきで。
何度も何度も触られるうちに強張っていた心が弛んで、段々と目蓋が重くなってきた。

「眠れそうか」

返事の代わりに手を引いて身体をベッドの隅に寄せる。意図を理解した彼は一旦手を解くと布団をめくり上げて隣に滑り込んできた。雨に濡れたのか、服からは強めに洗剤の香りがした。それから、彼が愛煙している煙草の香りも。
当たり前にこちらに向けられた胸に甘えるように擦り寄ると、緩く抱きしめられた。規則正しい鼓動に耳を傾けている間に、あんなに意識を苛んでいた雨音が遠ざかるのを感じて私はいつしか眠りに落ちていった。

い訳
(雨が降る夜だけ、恋人のように)


あきゅろす。
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