シャツの上にブレザーを羽織ってネクタイを締める。鏡の前に立つ自分を見て思わず顔がにやける。ベッドの上の時計をちらりと確認すると、もう家から出なくてはいけない時間だった。机の上に放っておいたカバンを急いで手に取り、家からでる。 空気が清々しい。 僕は今日、高校生になる。 ……つい数分前、馬鹿みたいにウキウキしていた自分に忠告してやりたい。高校は危険がいっぱいだ、と。 目の前に立つ数人の上級生。どんなやつが見ても、一目で不良だとわかる集団。 その集団に無理矢理連れて来られたのは校舎の裏だった。こんな型にハマった不良が今の時代に存在するなんて…実体験でなければ信じなかっただろう。 「聞いてんのか?新入生」 「ああ…はい、聞いてマス…」 「誰の許可貰ってそんな派手な頭してんだァ?」 派手な頭は親譲り(僕はハーフ)だ。そもそもアンタらの方が派手な頭してんじゃねぇか(紫はねぇよ)。 悪態はいくらでも浮かぶのに口から出た言葉はスミマセン、だった。自分のヘタレ加減に嫌気が差す。 「そこでなにしてるの!もう式が始まります。すぐ体育館に集合しなさい!」 「あ?」 僕に絡んでいた上級生がわらわらと声の主(救世主はなんと女の子だった)を取り囲む。僕はなにも出来ず、ただ成り行きを見守っていた。 「何様のつもりだ?」 「生徒会です」 「生徒の味方気取んなら、俺らにも優しくしてよ」 「俺らだってこの学校の生徒ですよ〜?」 彼女を嘲笑う声が不良連中から漏れる。しかし相手は動じない。意志の強そうな瞳で睨みを利かせている。 数秒間睨み合いが続き、不良のリーダーらしき人物が舌打ちをした。それからふい、と女の子から視線を外した。一触即発な雰囲気の中、圧し負けたのはなんと不良の方だったのだ。 不良のリーダーは覚えてろよ(現実で使う人間を初めて見た)、と吐き捨てて立ち去っていった。取り巻きは慌てながらあとを追っていった。 不良集団の姿が見えなくなった途端、女の子はへなへなと地面に座り込んだ。なにがあったのか、と驚いた僕は慌ててしゃがんで彼女の顔をのぞき込んだ。 「大丈夫!?」 「………った」 「え?」 「助かったぁ…」 意味がわからず目を白黒させる僕を後目に彼女は生徒会の腕章を外した。 次にスカートのポケットから学校の徽章を取り出し、胸に付ける。彼女の徽章は僕と同じ色をしていた。 「新入…生?」 「そう、生徒会の腕章もちょっと借りたの」 「どういうこと…?」 「はったりだったんだぁ…上手くいってよかった」 ……つまり、だ。 彼女は僕をあの場から助けてくれるために一肌脱いだのだ。わざわざ生徒会を騙り、普通なら関わりたくない相手と怯まず対等に渡り合って。 “初対面の僕”なんかのために。 正義感の塊なのか、困っている人を放っておけない質なのか。かなり危険な行動だった気もするけれどピンチを救ってもらえたのはありがたい。 今この状態で男としてのプライドやらなんやらを発動させるのは最低にもほどがある。 一つ深呼吸をして彼女の瞳をしっかり見つめる。 「その……ありがとう」 「どういたしまして。そうだ、キミ名前は?」 「レン。キミは?」 「リンだよ」 『間もなく入学式が始まります生徒のみなさんは――』 会話に区切りをつけるように放送が流れて、僕とリンは慌てて立ち上がった。友達の所へ戻らなければいけない、と体育館とは逆方向に行くリンは僕に背を向けて走っていった。 リンの背中を少し見送って、僕もその場から歩き出した。 無事、入学式を終えた僕は友達と話しながら教室に向かった。席順を確認して自分の席に座る。HRが始まる少し前にやっと僕の前の席に人が来た。 どんな子か確認するために目線を上げると僕を見ていたらしいその子と目があった。 驚きで呼吸が止まった気がした。目をこれでもか、と見開いて相手を見つめる。 「一年間よろしくね。レン」 窓から差し込む春の陽射しを浴びて笑ったリンの顔が、眩しいぐらい輝いて見えた。 キラキラ (目の前がキラキラするのは陽射しのせいか、それとも) |