三子と神森さん
ホームルームが終わるとすぐに俺たちは有里二子の妹を訪ねた。教室から出てきたのは今年入学してきた一年生だというのに、やたら大人びた印象を与える生徒だった。
「先輩方が私に何の用ですか」
「ええと、二子さんの妹さんの…三子(ミコ)さんですよね!」
三子と呼ばれた女生徒はこくりと頷いた。表情は崩れない。
しかし神森が事件の話題を持ち出すと、途端に顔が苦痛に歪んだ。
「貴方たちも姉の事件を…!帰って下さい!話すことなんて何もありませんから…!」
大きく息を吐いて三子は俯いた。神森が不安そうに俺を見つめる。わかった、わかったから泣きそうな顔をするな。
「俺たちは確かに有里二子の事件を調べているが…その、なんだ、知りたいんだよ。君のお姉さんがなぜ殺されなくてはならなかったのかを」
廊下を忙しく行き来するたくさんの生徒たち。なぜ彼らではなく彼女だったのか?
なぜ顔がないのか?
なぜ?
「姉が殺された理由…?そんなの…あるわけな」
「あるから殺されたんだよ」
「…っ!」
「千歳くん!まだそうと決まったわけじゃ…」
神森が俺の腕を引っ張る。けれど俺は言ってのけた。神森にはさぞ鬼に見えたことだろう。
「教えてくれ。最近の彼女のことを、どんな細かいことでもいい。彼女が殺された理由が解れば俺たちに出来ることがひとつぐらいは見つかるはずだ」
三子は唇を噛み締めて黙っていたがやがて大きく嘆息した。顔には諦めの色が浮かんでいる。
「…わかりました。協力します。でも…調べてわかったことを公表しないでもらえますか」
俺たちが頷くと三子は初めて笑顔を見せた。可憐で無邪気な明るい笑顔だった。
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