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彼女と神森さん

被害者は俺たちが通う青山高校の女生徒だった。奇しくも、神森のクラスメイトで比較的仲良くしていたらしい。

「有里(アリサト)さんは、陸上部で毎日頑張っていたんですよ」

神森は俯きながら廊下を歩く。
彼女の死体が発見されてから2日が経った。週末だからか、はたまたあのような事件が起きたからなのか、校内はどこかざわめきたっていた。

「フルネームは何て言うんだ?」

「二子(ニコ)ちゃんです」

二子とはまた、酔狂な。
名前からして他にも兄弟が居そうだなと考えていると、神森はそんな俺の考えを見抜いたのか、「彼女には大学生のお姉さんと、この高校の一年生である妹さんがいるそうですよ」と付け加えた。

顔がない死体。
正確に言えば、顔を剥ぎ取られた死体。骨格と持ち物から、警察は彼女だと判断したようだった。
事件当日、彼女がどうしてあの公園にいたのかはまだわかっていない。しかし、水曜日は学校が終わったその足で家の近くの塾へ行くことが決まっていた為、塾よりも大切な用事があってあそこにいたのではないかと報道された。

廊下に並ぶ窓ガラスを隔てた向こう側は、黒い雲が空を覆っていた。どうやら帰り際に一雨くるらしい。

「千歳くん」

「なんだ?」

「私、有里さんはきっと、傷心したまま亡くなったんだと思うんです」

珍しく神森は落ち込んでいた。
それはそうか、クラスメイトが殺されたのだから。吸血鬼には殺人鬼に勝る良心があるようだった。

「なんでそう思うんだ?」

「有里さんの"顔"が発見されたのは知ってますよね」

そういえば朝のニュースでちらっと聞いたような気もする。有里さんの"顔"が園内に設置されたトイレの外壁に貼りつけてあったとかなんとか。

「壁に書かれていた言葉もご存知ですか?」

知らない、と首を横に振ると神森は一呼吸置いてぽつりと呟いた。

「"美しさが足りない"」

美しさとは何だろう。
誰もが羨む美貌か、内面の清らかさか、努力の末に手にいれたプロポーションか。
犯人が書いたと思われるその言葉にはどこか相手を見下したような、それでいて残念がっているような節があった。

「有里さんとやらは、その、可愛らしい人だったのか?」

「私は彼女の煌めく笑顔が素敵だと思っていましたけど…」

神森は鞄からハンカチを取り出すと、勢いよく鼻をかんだ。ちーん。

「誰かと付き合っている、とか誰々が好きだ、なんていう話は?」

「聞いたことがないです…あ、でも…好きな人を聞いた時は頬を赤らめていたし…好きな人はいるのかも」

やはりか。
俺は、彼女が殺された理由にほんの少し近づいた気がする。神森はうんうん唸っていたが、奴がこの理由を理解するのは難しいかもしれない。
なにせ奴は、神森は、全てに平等なのだから。

「千歳くん!私、彼女を殺した犯人を許しません!」

「そうか…まあ、そうだろうな」

「放課後、彼女の妹さんに話を聞きに行きましょう!レッツ調査ッ」

先ほどまではしょんぼりと項垂れていた神森も、犯人の残した言葉が気にかかるのかそんなことを言い出した。
俺たちに出来るのは悲しむことではないのだ。




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