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悲鳴と神森さん

昇降口で神森を待っていると、SHRを終えたらしい4組の生徒が足早にやって来た。皆、授業から解放されたのでどこか浮き足立っていた。
と、足元に何かが当たる感触。見るとそれは装飾品が満載のピンク色のコンコルドだった。
拾い上げたコンコルドを繁々と見つめていると、背後から蚊の鳴くようなか細い声がした。

「す、すみません…それ…私のです…」

振り向くと、色白の小柄な女子生徒が肩までの黒髪を振り乱しながら必死に頭を下げていた。
不安そうに揺れる瞳がなんだか俺が悪いことをした気分にさせてくれる。心底勘弁願いたい。

「よっぽど大事なもんなんだな」

手渡しながらそう言うと、彼女は安堵の表情を浮かべて言った。

「好きな人からもらったの…相手はきっと覚えてないだろうけど、私には大切な宝物なんです…」

華やかな笑みを見せた彼女は一礼すると、コンコルドを大事そうに鞄に入れると昇降口を抜けて行った。
駆けてゆく彼女の肩で踊るスクールバッグに可愛らしい字で「鳴海優子(ナルミユウコ)」と表記してあった。
なるほど、確かに優しそうだという印象を受けた。

「ちーとーせくん!お待たせしました!行きましょうっレッツピクニックッ」

ああ、静かな空間が一変した。
騒がしさの元である神森はいつも通りの美貌を撒き散らしながら、こちらへと駆けて来た。

「煩い、騒ぐな」

「千歳くんはピクニックが嫌いなんですか?そんなの残念すぎます!楽しいですよ!」

淑やかな印象の外見とは裏腹に能天気な中身。本当にもう、全開だなあ、こいつ。

青山公園は学校から徒歩で10分ほどの距離にある自然溢れる公園だった。木製のベンチが多数設置されており、休日はピクニック目的でやって来る家族連れが多かった。
もっとも、今日は週の真ん中の水曜日だったので人は少ないとは思うのだが。

「私、シートを忘れてしまったのでベンチにお世話になりましょうねっ」

「唐突だったからな」

「楽しければいいんですよ」

にこにこと笑みを絶やさない神森に呆れ半分可笑しさ半分の視線を寄越していると、公園の入口から顔面蒼白の初老の男が飛び出してきた。
尋常じゃないその様子に、俺と神森は顔を見合わせて彼に駆け寄った。

「どうしたんですか?そんなに慌てて」

「どっ…退け!わしは何も見てないぞ!あんな…ああ…口に出すのもおぞましい…!」

半ば泡を吹きながら走り去る男が来た方向へと歩みを進めると、ベンチの影から女生徒のものと思われる二本の足がつきだしていた。

「千歳くん…」

嫌な予感がした。

「いやああああああああっ!」

耳をつんざくような悲鳴。
隣にいた神森がその場に泣き崩れた。神森の悲鳴のおかげで俺はなんとか冷静でいられた。
俺たちを待っていたのは、顔のない死体だった。




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