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吸血鬼神森さん

「それでですね、千歳くん。最近は日焼け止めも値上がりしてますから家族全員げんなりしてるんですよ」

「そうかそうか」

「まったく…化粧品会社の売り上げに貢献しているのは私たち吸血鬼だということを忘れたのでしょうか…」

膨れっ面の神森は貴重だ。
今ここに写真部員がいればきっと慌ててシャッターを切ったことだろう。ブロマイドは一枚いくらで売れるのだろうか…。

「聞いてますか?千歳くん!」

「聞いてる、聞いてるからそんなに顔を近づけるな」

目前に迫った神森の整った顔を押し戻しながら、弁当をつつく。米粒を一粒も残さないように躍起になっている神森とは違い、俺はと言うとあまり食欲はわかず、まだ半分ほど残っている。

「大変だな、吸血鬼も」

「そうなんですよ…最近は存在自体があまり知られていないですからね。好きな時に吸える社会でもなくなりましたし」

科学室内は涼しかった。おまけにカーテンを閉めきれば日光は入ってこないので、心なしか神森の表情もいきいきとしていた。
しかし不満は次から次へと涌いてくるようだった。

「ということで、千歳くん」

「デザートタイムか?」

「あったりー!毎日有り難うございます…それではいただきます!」

すっかり弁当箱を空にした神森は満面の笑みを浮かべて俺の横腹をつついた。
首を彼女のほうへ傾けると一瞬の間をおいてちくりとした痛みが走った。
甘噛みなので痛みは酷くなく、慣れると少々こそばゆい。

「ぷはー美味しかった!ごちそうさまでした」

俺の首から口を離した神森の口元には少量の血が付着していた。黙ってそれを拭いてやると、神森はくすぐったそうに身を捩った。

「千歳くん、ふらふらしませんか?」

「大丈夫だ、血は多いほうだしな。それにしても、俺の血はそんなに美味いのか?」

「はいっ、かすかにとろみがあって、後味もすっきりしてます。こんなに美味しい血は千歳くんが初めてですよ」

なんとも言い難い賛辞を受け、神森に微笑まれたところで昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。

「次は移動教室でした。早く行かないと!それじゃあ千歳くん、また放課後に」

走り去る彼女が見えなくなるまで見送ってから、俺はゆっくりと歩き出した。
彼女との騒がしい一時が終わった。




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