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九龍 text
chained(R20)

※阿皆前提の主皆
※監禁、薬物、暴力的表現があります
※20歳未満の方は閲覧しないでください





始まりは、突然のことだった。
大学から帰ってきたらアパートの鍵が開いていて、不審に思いながら部屋に入った途端に視界が揺れた。
続いて、側頭部が熱くなって、殴られたんだと気づいたときには、床に崩れていた。
どんどん暗くなる視界でとらえたのは。

「九ちゃ……」

なぜ。
疑問は疑問のまま、強制的に暗闇の中に沈められていった。



目が覚めたときには見知らぬ部屋のベッドに転がされていた。
コンクリート打ち放しの、殺風景な部屋。
息苦しさを感じて首元に触れると、何かが巻きつけられていて、ジャラ、と鎖が音を立てる。
それは紛れもなく首輪だった。
驚いて身を起こそうとするが、あそびの少ないらしい鎖に阻まれてあえなく失敗した。
どこかにくくりつけられて、拘束されているらしい。
どうして。
一体、誰が、何のために。
そういえば、アイツはどうしてーー
不意に、部屋の空気がかすかに揺れて、誰かが入ってくる気配を感じた。
「いい格好だね、甲太郎」
それはまさに今、思い出していた人物だった。


それからしばらくは、意識がなくなるまで殴られ続けた。
なんの冗談だよ、と口を開こうとした途端に口の中に布をつっこまれて言葉を封じられて。
最初は、頬に一発。
熱さを感じながら、まさか、と思ったが、ところ構わず体じゅうに拳をうちこんでいるのは間違いなく彼で、襲ってくる熱と痛みも本物だった。
手も脚も自由なのに、あまりの衝撃で暴れることもできない。
どうして。
それだけが頭のなかをぐるぐると回り続ける。
感情の読み取れない冷ややかな目でこちらを見下ろし、一言も声を発せず痛みだけを与える人物を見上げながら。
そして次第に、意識を飛ばすことを待ち望むようになっていった。
そうすれば、肉体の痛みからも、絶望的な現実からも、逃れられる。



何日過ごしたのか、光の射さない薄暗い部屋で朝も夜もわからないくらいになって、暴力は止まなくて、ついには痛みも飽和して、夢と現実の区別もつかなくなった。
九ちゃんはときどきやって来て、飽きるまでおれを殴り続けたあとで、管から直接流動食のようなものを流し込んでいく。
それが食事だった。
風呂なんてもちろん用意されていない。
ときどき、濡れたタオルで拭かれるだけだ。
他人に晒すようなところではない箇所もあますところなく触れられて、暴れて、殴られて。
排泄は……それ以上に言いたくない経験をさせられた。
でも全ては慣れだ。
人間、どんなことにも慣れる。
人はそれを諦観と呼ぶのかもしれないが、まあどっちでもいい。
着替えは九ちゃんが全てしてくれたが、面倒なのか、上半身は裸のまま、着替えは下半身だけ、それも下着はつけないままだった。
ベッドに横たわったままで、与えられる唯一の情報は吐き気と痛覚だけという日が、正常な判断を狂わせる。
怖い。
以前みたいに、九ちゃんの声が聞きたい。
そして誰よりも大切な人物のことを思う。
阿門の声が、聞きたい。


やがて、暴力を振るわれることはなくなった。
言葉を口にしようとしない限り。
ただ、状況は好転したわけではなく、悪くなる一方で。
ついにおれは薬漬けにされてしまった。
始めは、怪しげなチューブを押し当てられて、殴られる恐怖から抵抗も出来なくて、妙な香りのする気体を吸わされた。
そうすると、今までに経験したことのないほどの快楽と、気がおかしくなるほどの多幸感が得られる。
かつての墓の呪いの名残で薬には耐性があるはずだが、繰り返されるうちに九ちゃんが来るのが待ち切れなくなって、アイツが粉状のものを持ってきたときも奪うようにして吸い込んだ。
九ちゃんは無口なまま。


正確には把握できないが、恐らく2、3週間薬の投与が繰り返されて、今に至る。
そういう訳で今は九ちゃんがやってくるのを、玄関で飼い主を待つ犬のように、涎を垂らして待っている。
最近では起きている間はずっとこうしている気がする。
頭の中がスカスカになって、阿門の顔を思い出すことも減っていって、今は顔もよく思い出せない。
とつぜん消えたおれを、必死になって捜しているのだろうが、もはや関係のないことだ。
九ちゃんのことだ、たとえ阿門でも、ここが見つかるわけがない。



過敏なほどに鋭くなった聴覚で、足音を感知する。
九ちゃんだ。
確認するまでもない。
おれの世界にいる他人は、一人しかいないのだから。
ベッドサイドにやってきた九ちゃんを見上げて起き上がろうとするが、首輪で自分の首を締めるだけだった。
咳き込んでいると、半分脱げかけていたスウェットを乱暴に脱がされた。
いつものように体を拭くつもりなのかと思ったが、太ももを掴んで脚を広げられて、どうやら違うらしいと気づく。
本当は早く薬が欲しいのに。
早くくれ、と目で訴えかけると、九ちゃんはふん、と鼻で笑った。
内腿に冷たいものが触れた後、ちくりとした痛みがあり、注射をされたのだと気づく。
さすがに身を固くするけれど、やがて求めていたもの以上のものが得られたのだと感じた。
目の奥か脳の底か分からないけれど、ちかちかと何度かサインがあって、直後にぎゅんと意識が引っ張られるような感覚をおぼえる。
体が宙に浮き上がったと思ったら、急降下していく。
今までのものも遥かにしのぐトリップ感に頭がおかしくなる。
そして、おかしくなった自分を認識する自分さえも吹き飛んでしまう。
薬の耐性なんてぶち壊して、邪魔なものを全て捨て去って。
自分の体が、快楽を感じるむき身の神経だけでできているように思えた。

唐突に尻の穴にバイブを無理矢理突っ込まれても、痛みなんて感じなかった。
久しぶりにそこに異物を受け入れて、血もたくさん出ているはずなのに。
全ての感覚は脳を痺れさせる快感に直結する。
首輪でわざと首を締めながら、バイブを握ってアナルの奥深くまで、自分で押し込む。
ヤバいくらいに、いい。
九ちゃんの前で前立腺をこすりまくって、何度も射精して、イクたびに殴られて。
酸欠なのに朦朧とすることも許されず、イってるのかそうでないのか分からないまま、ぶっ飛ぶまで自分で腸壁を擦り続けた。
九ちゃんが少し笑った気がする。
幻覚だったかもしれない。




それからというもの、九ちゃんはおれの静脈にキモチよくなる薬を注射してくれて、同時にアナルバイブも挿入するようになった。
だからおれは、先にスウェットを脱いで待っておく。
「く、あッ、んあああああッ!ひッ、あ」
言葉でなければ、喘ぎ声やうめき声をあげても許してくれるようになった。
まあ、もし殴られるとしても自制なんてもとよりできないし、自分が何か言ってるかどうかなんて分からない。
ただただ、快楽を求めて腰を振り続ける。
不意に手を叩かれて、握っていたものを奪われずるりと引き抜かれた。
おれから快楽を取り上げた者に殺意をこめて視線を下ろすと、それ以上に憎しみを込めた目で睨まれ、腹を殴られた後で、再びバイブを差し出された。
ちょうど股間の先あたり、少し浮かせて。
返して欲しくて仕方なくて、腕を伸ばしてそれをひったくろうとするのに、届く前に遠くにやられてしまう。
どうしようもなくもどかしくて、首が締まるのもお構いなしに体を跳ねさせていると、ツンツン、と入り口をつつかれた。
自分で入れろということか。
足でベッドを踏みしめ、下半身を持ち上げるようにしてそこにめがけて腰を押し付けようとする。
でもその玩具は絶妙な位置に固定されていて、いくら腰を振っても入り口が触れるくらいで、飲み込むことができない。
自分で入り口をひくひくと収縮させてなんとか取り込もうとするのに、少し先端を埋めては再び離される。
もうダメだ。
殴られてもいい。
ナカが疼いて仕方がない。
「……ああ、くれッ、九ちゃ、中に、いれてくれ……ッ!!」
予想に反して、拳は飛んでこなかった。
代わりにあたっていたバイブが離れていくのを感じて、何をすると叫び出しそうになった瞬間、脚を持ち上げられた。
あ、と思う間に熱くて硬いものが一気に突き入れられ、腸壁を押し上げながら貫かれた。
ぶつりという嫌な音がする。
これは、九ちゃんの、
その意味を理解する前に、イっていた。
初めて、親友のペニスを挿れられて、その衝撃でイった。
「あ、あ……」
さすがにショックだった。
恋人より他の男と、それもかつての親友であり、恋人の友人でもある男と、一線を越えてしまった事実。
これ以上の裏切りはない。
それでも薬に支配された体は残酷で、すぐにそんなことはどうでもよくなるぐらいの快楽を与えてくる。
びくびくと全身で痙攣するおれに構う様子もなく、ギチギチに栓をされた穴をさらに拡げるように無理矢理、でかい性器を抜き射しされる。
ずちゅりずちゅりと濡れた肉の擦れあう音がして、わけがわからない。
「うぁ……く、もっと、おく…に、」
ガチンと鎖を引っ張って、九ちゃんに腰を押しつける。
脚を使って引き寄せるようにして、肌同士が密着するくらい、限界まで奥にペニスを埋めた。
「くあ…ッ、が…ぁ」
内臓が圧迫されて、ひどく苦しくて、気持ちがいい。
無茶苦茶に腰を蠢かせて、自分から九ちゃんの性器を堪能する。
馬鹿でかいものには阿門との行為で慣れていた筈だが、長さだけでいえばそれ以上だった。
あいつにも入らせなかったところを、九ちゃんのペニスに犯されてしまった。
それどころか、自ら悦んで受け入れている。
浅ましい自分の姿と、哀れな恋人の存在を思い浮かべてゾクゾクする。
おれはこんなもんだ。
九ちゃんのモノで中を擦られながら、自分の快楽のためだけに恋人が悲しむ姿を思い浮かべている。
それも、名前と性器の感触以外ははっきりと思い出せない。
最低だ。
ベッドに繋がれたまま、薬なしでは生きられないおれの現状もどん底と言えるだろうが、阿門もこんな恋人をもって、なかなか悲惨だ。
「甲太郎」
名前を呼ばれて、はっと我に返った。
涙で滲む視界で、挿れっぱなしで止まってしまった九ちゃんを見上げる。
自分が泣いていることにも、九ちゃんの顔を久しぶりにまともに見たことも、そこで初めて気づいた。
さっきのは、九ちゃんの声だ。
久しぶりに聞いた、ずっと聞きたかった、懐かしい
「愛してるよ」
やっと口を開いたと思ったら、今さらそんな下らないことを。
「な、んで、九ちゃ、」
いいから早く動け、と思うのに、口は違う言葉を吐いていた。
今まで溜まっていた分が、堤が崩壊するように一気に流れ出てきたのかもしれない。
「何で、だよ、馬鹿野郎ッ……!早く奥に、来いよ!」
言葉と一緒に涙も垂れ流しになって止まらない。
自分自身を制御する機能が色々とぶっ壊れてしまったんだろう。
おれの言葉を黙って聞きながら、突き上げを再開した九ちゃんの背中を、持ち上げられた脚を動かして蹴りまくる。
「ふざッけんな、っあ、く、それ、きもち、いっ」
自分が怒っているのかよがっているのか、よく分からない。
恐らく、思考回路のおかしくなった今のおれのなかでは両方とも相関関係にある。
憎悪を向ける相手に犯されているのがどうしようもない快感に繋がっていて、おれの人格を暴力で抉っておいて快楽で無理矢理支配する男に対して、憎しみが募る。
そのうえ不意打ちみたいに親友だったころの表情を見せて、おれから愛情さえもぎとろうとする九ちゃんが憎い。
「っ、た」
無意識に伸ばしていた手を掴まれて、噛み付かれた。
同時に腰の動きが速くなる。
「甲太郎、こう…」
指の間を舐めながら、荒い息でおれの名前を呼ぶ男を睨みつける。
ぱんぱんと肌をぶつけられて、そんな感覚さえ気持ちよくて、性感が一気に高まる。
「死ね、し、ね……っ、あっうあっ、九ちゃ、死ぬッ!!」
「ッ、甲…なか、出すからッ…、受けとって…」
「なッ……!く、やめ、ろ、ッ!」
切羽詰まった声で言うなり、腰を押し付けられ、奥の壁に押し付けらた九ちゃんのペニスがびくびくと震えた。
どぷどぷと注がれる熱い精液を腸内に受けながら、おれも全身を震わせてイっていた。
九ちゃんは何度かゆるゆると腰を動かして最後までおれの中に出しきると、満足げに息をついて、余韻に浸ることもせず、ずるりと出ていった。
「残念、甲太郎…俺なんかに中に出されちゃったな」
オヤジかよ。ふざけやがって。
出されちゃったな、じゃない。
本当に、ふざけるな。
さっさとおれのうえから体を起こしながら、他人事のように言う男を、睨みつける。
けれど、奥からどろりと精液が溢れ出してくるのを感じて、虚脱感に襲われる。
キメている間に達すれば意識がとんで、何も考えずに済むはずなのに、薬は何時の間にか切れているようだった。
拡げられて緩んだ尻の穴から精液が際限なく溢れてくる感覚が気持ち悪くて、ぶる、と体を震わせた。
こんなに虚しいのは、久しぶりだ。
阿門にも、中で出されたことなんて数えるほどしかなかったのに。
ぬるぬるで、気持ち悪い。
薬の勢いにまかせて無理をしたせいか、体じゅう痛くて怠くて、加えて心もボロボロで、怒る気力さえない。
「九ちゃん、どうしてこんな…」
何度も何度も繰り返した疑問。
改めて口にしたら、ぶん殴られた。
「愛してるから」
続けて、2度、3度、と殴られる。
やっぱりまた殴られるのか。
愛してるから、殴るのか。
九ちゃんはこんなに弱い人間だったんだな、と今さらそんなことを思う。
それにしてもたった今まで抱いていた相手を殴るなんて、外道の所業じゃないか。
抱いていたというよりは、突っ込んで揺さぶって射精しただけか。
口の中も鼻の中も血だらけで気持ちが悪い。
「痛いか?」
「…ああ、痛ぇ」
おまけに喋ろうとすると、喉に血が流れてくる。
どうせじきに副作用が出て、この程度の痛みなんて気にならなくなるほどの幻覚に苦しめられることになるけどな。
「阿門のところに帰りたいか?」
「帰らせてくれんのかよ」
「そんな訳ないだろ」
ぐん、と視界が揺れ、気道が潰れる。
鎖を引っ張ったらしい。
怒るなら聞くな。
「お前はやっぱり、こうしてる方が似合うよ。鎖をつけて、何かに依存しきってるほうが……他の奴に横取りされるぐらいなら…ッ」
泣くぐらいなら、聞くなよ…。
昔から、コイツの悲しそうな面を見るのは苦手だった。
酸欠でクラクラするが、重い腕をなんとか持ち上げて側にいる九ちゃんに手を伸ばすと、首輪を引く手がびく、と震えた。
「九ちゃんになら…仕方ない、かもな……」
もともと、おれは鎖に繋がれていた。
それを断ち切って、おれを救い出してくれたのは九ちゃんで、ならばまた繋がれても、九ちゃんの手なら諦めもつく。
元に戻っただけだ。
お前が似合うというのなら、仕方ない。
一度手にした自由と愛を奪われるのは容易には堪え難いが、逆にひと時の幸せを九ちゃんが与えてくれたんだと思うこともできなくはない。
阿門には、悪いことをしたが。
「そうだよ甲太郎、最初からこうしておくべきだった。第一、ここを出てどこへ行く?お前は俺なしではもう生きていけないよ。薬だってお前じゃ到底手に入れられないし、阿門でも薬づけのお前の世話なんてできない」
何を必死になっているんだ。
九ちゃんなしで生きていけないことは、おれにもとっくに分かっている。
食べ物も薬もセックスも、おれに生きていく術を与えてくれるのはもうお前だけだ。
そう言っても通じないだろうか。
「俺の言うことを聞いていれば、薬がきれたらすぐに射ってあげるし、いっぱい気持ちよくして、副作用も後遺症も面倒を見てあげるから」
「あ、あ…そ、だな…」
声も掠れてきた。
九ちゃんが気づいてようやく鎖を下ろしてくれた。
「だから、反抗するなよ、甲太郎。だから……俺を拒むな」
ああそうか、病気なんだな。病んでる。
本当は、殺してやりたいぐらい、憎い。
けれど、離れることはできない。
言い返すこともできない。
だからまた薬をくれ。
そう言ってやりたかったが、少し手を離すのが遅かったかもな。
視界がどんどん暗くなる。
次起きたときはどんな幻覚を見て、どんなことをされるんだろうか。
遠くなっていく九ちゃんの声を聞きながら、そんな事を考えていた。


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