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九龍 text
皆守誕生日記念
「う〜…寒い。」

4月も半ばになろうというのに、日が落ちる頃にもなると、まだまだ寒い。
上着の襟を片手で合わせ、キーを指で弄びながら階段をトントンと一段ずつ上っていく。


天香を卒業してから、数週間。
すなわち葉佩が日本を去ってからも数週間が経ったことになる。
その間、皆守は引っ越しやらバイト探しやらに忙殺されていた。
最近になってようやく、都内のとある本の街で一人暮らしを始めた。
勿論、古書や専門書に興味があってのことではない。
そこは都内でも有数のカレー激戦区であり、有名店がしのぎを削るカレーの街でもあったからだ。
かねてから住むならここだ、と決めていたが、卒業を期にこの街の外れに引っ越してきた。
幸いなことに、近くのカレー店で働けることにもなった。
未開封の段ボールが未だに積まれている部屋は、立派なアパートとは言い難いが、十分居心地の良い住み処になっている。

表札もかけていない自分の部屋の前で立ち止まると、キーをドアノブに差し込む。

「………?」

音も手応えもない。
鍵をかけ忘れたか?
怪訝に思ってドアを開き、部屋に入ったところで、皆守は声を失った。

「おかえり、甲太郎!」


そこにいたのは紛れもない、葉佩だった。



「なんでそんなとこで立ってんの?」

玄関に立ち尽くす皆守を、まるで自分の家かのように招きいれる。

「お前………」

ベッドの上に座らせられた皆守は二の句がつけず、口をパクパクさせる。

「『任務はどうした、どうやって入った、どうしてここが分かった』ってとこ?」

ソファに勢いよくボスン、と沈みながら葉佩が愉快そうに尋ねる。

「任務はね、ちょっとお休みもらっちゃった。どうしてここが分かったかは企業秘密。甲太郎、俺に内緒で引っ越しちゃうんだもんな。」

悪戯っぽく笑う葉佩に、皆守は盛大なため息をつく。

「お休みって、お前な…。そんなんで大丈夫なのか?何しに帰ってきたんだよ」

この際無断で部屋に入ったことは無視することにする。
しかしいくら葉佩でも数週間で秘宝を入手することは困難だろう。
ということは途中で投げ出してきたのだ。
問題はそこだった。

「任務放り出して、なんでこんなところで無駄話してるんだ?」

「無駄話だなんて、ヒドイ。せっかくお前の誕生日を二人でお祝いしようと帰って来たのに。」

「………は?」

誕生日?
数瞬、皆守は葉佩の言葉をリフレインし、あぁ、と納得する。
そう言えば今日は俺の誕生日だっけか、と他人事のように思う。
知り合いのいない街で一人暮らしをしていれば、忘れもする。
だがここで『覚えていてくれてありがとう』などと言う気は毛頭なかった。


「…んなことで任務サボるなよ、馬鹿」

「甲太郎、冷たいッ!本当は嬉しいくせに」

「阿呆か。どこの世界に恋人の足引っ張って嬉しい男がいるんだよ」

オーバーアクションですがり付いてくる葉佩に呆れながら言い放ち、足で軽く胸を押し返す。
葉佩は照れたように笑い、うまくその足を捉えると、頬擦りしてくる。

「へへ、ごめん、嘘。俺が会いたかったんだ。」

靴下を脱がされ、親指を軽く噛まれる。
ビク、と皆守の体が震える。

「ッ汚いから、舐めるな。病気になるぞ、お前」

「病気でも良いから、もっと舐めさせて。スゲーいい匂い…美味しい」

「…変態かっ」

指の間にも舌を差し入れ、丁寧に一本一本舐めあげる。
ピチャピチャという粘っこい音に、皆守の息が僅かに弾む。

「ど、うした九ちゃん、欲求不満か?」

「ん…そうだよ。何週間もしてないんだから」

「当たり前だ。お前がよそでやってたら、前も後ろも使い物にならなくしてやるとこだ」

青くなって固まる葉佩を見ながら皆守は口の端をあげて笑みを浮かべる。
その隙にベタベタになった足を引き抜くと、葉佩のシャツにグリグリと押し付けて拭った。

「じゃ、じゃあさ、皆守のために大事にとっといた俺の精液、受け取ってくれる?」

「なっ……お前、どこの変態オヤジだよ!?」

「やだなぁ、俺からの誕生日プレゼントなのに」

「お前がヤりたいだけなんじゃないのか?」

あくまでもめげない葉佩に、皆守は頭を抱える。
葉佩には、あまりにもデリカシーというものがない。
外国暮らしのせいか、素質なのかは判然としないが、過度な愛情表現とデリカシーのなさには学生時代から悩まされていた。

(なんで俺は、こんな奴を好きになっちまったんだ……)

今さら悔いても仕方ない。
後悔先に立たず、だ。
むしろ後悔してどうにかなる問題でないことが問題だった。
葉佩が他人の誕生日を祝うために遺跡探索を切り上げたこと自体、奇跡に近い。
いくらヘラヘラした変態に見えても、学生時代から、任務には妥協のない男だった。
他人のために喜んで何かをすることができる性格ではあったが、あくまでも優勢順位というものを胸の内にもっていたことを皆守は知っている。
葉佩のそういうところが、皆守の好きなところでもあったのだが。


皆守は頭をかきながら立ち上がる。

「仕方がないな。まァ、ヨシとするか」

「えっ、え、うわ、ちょッ……!」

葉佩の腕を引き、強引に立たせると、そのまま体重をかけてベッドに倒れ込む。

「甲太郎、あの」

「くれるんだろ?俺のためと言ったからには、ちゃんと全部出してけよ。」

「え、全部!?……っは、」


ニヤリと笑うと、固まる葉佩の股をグリグリと押してやった。
ピク、と眉をひそめ、雄の顔つきに変わる葉佩を、皆守は満足げに見上げていた。





翌日、ベッドの上で精も根も尽き果て出国を延期すると告げた葉佩は、皆守に蹴り出されることになった。

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