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「あれ?おはよう良守!今日は早いね?」

まだぼんやりとしたまま洗面所の方に廊下を進んでゆくと、その姿を捉えた父が台所からひょいと顔を出した。


「あ……おはよう、」

一度振り向いて挨拶を返し、また再度歩みをすすめる。

いやいや、無理矢理起こされてさ…、
と溜め息まじりに背中の父に投げ掛けてから、
はた、
と足を止め父の方に向き直った。

すこし、逡巡してから、
一応告げとくべきなんだろうしなと(ずいぶんと躊躇いながら)、口を開いた。


「あ……えっと、

 ――そろそろ兄貴こっちに顔出す、……かも」

少し目を伏せながら零すと、「連絡がきたの?」と、ぱちくりと開かれた瞳を捉えてしまって苦笑い。

――――……‥・

正守があんなふうに人の迷惑とかまるで考えてもいないように式神を寄越すと、きまって数日以内にふらりと現われることを、良守は知っていた。

ふらり訪ねて来たと思えば、好き勝手したい放題やってから、人の布団でぐうすか寝こけるようなこともしばしばで。
まったく何を考えているのか分からない兄の行為に辟易することも多々あったけれど、取り敢えず、
朝良守を起こしに来た父が、良守の狭い布団に潜り込んだ正守(絶対、分かってやってるから質が悪い!)の姿を見つけても混乱することの無いよう、
ふいに捕らえたその微かな予感は、父にだけは念の為伝えておくようにしていたのだった。


(以前二人で狭い布団の中で寄り添い寝入って居る所を見られた良守が、慌てふためき必死に弁解しようとしたことがあったけれど、『別に、良守は正良のこと、嫌いなわけじゃなかったんだね?よかった…なんだか近頃仲が悪いみたいだったから、父さん、すこしだけ心配してたんだ。』と目を潤ませながら満面の笑顔で返してきた父にわが親ながら…、と閉口しつつもそのときばかりは良守も脳天気な父に、少しだけほっとしていたのだけど。)



――――……‥・



「――いや……まあ、…うん」

まさか自分の勘だと言おうものならその気恥ずかしさに顔から火がでる所なので、曖昧な返事をかえす。
父はにこりと笑ってから、「じゃあ、美味しいもの作らなきゃね!」と、それは楽しそうに台所へと戻っていった。








あきゅろす。
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