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――ああ。
あにきがいたら。

だって、あいつのせいなんだから。

…あにき、
いつ帰ってくるんだよ。

なあ…、
おれはどうしたらいいの?


ここに、いてくれたら…いいのに。

「ここに…兄貴が。」
口に出してみて、はたと気付く。右手の方印を見つめてから、すこしだけ逡巡して、布団から起き上がり式神を生み出す札を手に取った。
はじめはぼんやりと、次第にはっきりとした兄の像を思い浮かべたところで―――力を込めた。







「――まじ…かよ、」


ボン、と何かが現れた音がして良守の目に写ったのは、怖いほどよくできた、兄の姿をした式神だった。
(普段から自分や時音の姿などは造り慣れていたが、まさか初めてにしてこんなによく似るとは、)その出来は、造り上げた本人すら驚くほどで。


――同時に、その冷たい眼差しが、
良守は、私利私欲のために使ってはならないと教わってきたこの能力を、これからしようとする淫らで浅はかな行いの助力とするのだ、
という事実を正面から突き付けているような気がして。
良守は思わず、目を臥せ、俯いてしまった。




――やっぱり、だめだ。
良守は自分の短絡な考えを恥じて、兄の姿をした式神を消そうと顔をあげた。


じっ、と目の前の『兄』を見つめる。
ぼんやりとした暗い瞳は、あの人の持つ闇を映して居るようで、なんだか胸がちくりと痛んだ。





『兄』を座らせ、胡座をかかせたその両の膝に手を突いて、顔を近付ける。
良守の顔を間近にとらえた『兄』は目を細め、口角をくっ、と引き揚げた。
そして良守の頬にそっと手を添え、まっすぐに見つめかえす。
血の通わないその手はひんやりとしたが、それが一層あの人を思い出させてしまった。
(どうしよう。)


(―――とまらないかも。)
なんだか酷い悪夢を見て居るような気分になって、良守は、そのまま――『兄』と唇を重ねた。







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