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「あれ?良守は…寝たの?」
「……あ、うん!ついさっきね。
そうだ正兄、将棋!やろ?
僕また少し上達したと思うんだ!」
(あからさま過ぎるってば、もう!)
黒衣に身を包んだ男に気付かれないよう、小さく顔をしかめる。
――いっそ全部、言ってあげようかな。
とは思ったけれど、そうしたところで哀しむのは恐らく次兄だけなので、利守は大人しく「時間稼ぎ」の準備を始めた。
「ああ、まって…ごめん利守、ちょっとお願いがあるんだけど。」
嫌な予感が、したにはしたのだ。
聡い弟って、本当に損。
利守は本日何度目かの、溜め息をついた。
「…なんだよ、用事って。」
眠りを妨げられた(よりにもよって、こいつに!)良守は、大層不機嫌に黒衣の男を睨み付けた。
「おいおい、いやに機嫌悪いな?
利守ありがと、起こすの大変だったろ。」
くすくすと末の弟と笑い合う男に苛々として、良守はその不快感を表すように、眉間に皺を寄せる。
「うっせー!早く用件を言え!」
「はいはい、悪かったって。
お詫びに、今夜は仕事手伝うからさ。」
「要らん!」
「ん、これ着てちょっと立って。」
そういって差し出されたものは、普段正守が纏っている、暗い闇に溶け込む大きな羽織りだった。
「っ、な…」
「ほら、早く。」
「な、なんでだよっ!」
「なんでも。
…別に変なことしないって。」
「したら問題だっつの!」
「いーから、ほら!」
急かされて渋々袖を通す。
するり、着慣らされた柔らかな肌触りと、
……兄の香りが良守を包んだ。
「……なんだよ、」
ぽかんと口を開けて見下ろす兄を睨み上げる。
何か変なことでもあっただろうか、良守は身に余るそれをばさばさと振った。
「おい、何か言――」
「………ふっ、」
くくく、
…あはははは!
――わっはははは!!
「…なっ……!!!
何がおかしいんだよ!
てゆーか利守まで!
何笑ってんだ!」
あははははと顔を歪めて笑い転げる二人に、良守は、きー!と子供のように地団駄を踏む。
「あはは、ごめん、良兄ごめんって!
その、……ぷぷっ!」
「だーーー!笑うなっつの!」
「わあ!ごめんってば、違うんだよ!」
「なにがだよ!」
いい加減拗ねてきた良守を宥めるように、利守が事の真相を述べた。
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