てんとう虫 小さな小さなその手を握ったのはほんの少し前、否、ずっと以前のことだろうか…。 右手の人差し指にとまる小さな命に、不意に懐かしさが過る。 すぐ下の弟がまだ幼かった頃、兄である俺の後をよく付いて回っていた。ある日、弟は兄である俺が捕らえた虫を嬉しそうに眺めていた。その懸命な姿が可愛くもあり、どうしようもなく黒い思いが湧いてくることもあった。それを自分も幼い故に昇華出来るはずもなく、弟に牙を向けそうになる。 ―――だから離れた。 そして離れてわかった。 ―――誰よりも愛おしい。愛しくて愛しくて、自分は狂いかけていた。 この指先にいる小さな命を簡単に奪えるように、あの時の俺は良守を…。 「何呆けてんだ、兄貴?あ、てんとう虫じゃん」 仮眠から目覚めたばかりでまだ眠たそうな良守が俺の手を覗き込んできた。 「昔よくお前の為に捕まえてやったよな。覚えてるか?」 懐かしい、と呟くと、良守は一瞬目を見開き、だが泣きそうな顔で俯く。 「…良も」 「―――も…、捕ってやれないって。お前、あの日言っただろ!」 『良守、ごめんな。もう兄ちゃんお前にてんとう虫捕ってやれないよ』 くしゃりと髪を撫でながら言えば、涙をポタポタと溢しながら一生懸命俺の服を握り締める弟の姿。 過去と現在の姿がだぶる。いつでも泣いてばかりの弟。泣かせてばかりの兄。 ―――けれど。 「…良守、明日学校休みだろ?久しぶりに出掛けるぞ」 泣かせるんじゃない。護る為に、今ここに俺はいるのだから。 -------------- 2008/02/12 曹達水の和音悠希さまよりv ありがとうございます! 実は、「にじいろソーダ水」の続きを意識して下さったとか!幸せ! 禁転載・複製です、誰にもわたさないよ…!はあはあ!(←…) (back) |