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「よーしもり、なに作っ」
「ぎゃーー入ってくんな!!
 出来上がるまで立入り禁止!!!」
「え、そんなこと言わ」
【結ッッ!!!】




漂うチョコレートの香り。
四角い薄青の向こうに並ぶ其れ等は、まるでショーケースに入れられた宝石のようでした。


――――……‥・


サニー・デイ・チョコレート・サンデー



「あ、兄貴?……あのさ、」

目の前には、もじもじと決まり悪そうに目を泳がせながらほんのり頬をピンクに染めた、『ああ今僕は照れて居ます。』と、言わんばかりの良守君。
お菓子作りが趣味の可愛い弟とイケナイ関係になっちゃったお兄さんとしては、バレンタインには少なからずの期待を持って帰省した訳ですが、…特段甘い一夜を過ごせた訳でも無く。
涙ながらに再び仕事へ、と玄関扉に掛けた手は、廊下をぱたぱた駆ける音にカチリと其れこそチョコレートの如く固まりましたとさ。



苺みたいに真っ赤になってモゴモゴ言ってる良守君が、手にしているのは少し大きな、シンプルだけど可愛く包装された箱。
(やばい、俺、生きててよかったなんて、まさかこんな所で。)

「………兄貴?」

おいっ、聞いてたのか!
なんて言われましたけど、そりゃ愚問というものさ。
今、良守を抱き締めて濃厚なヴェーゼを交わしてた所です、ええまあ、あっちの世界でね。

「……あーー、ありがとう。」

(どーしよう?このままその流れでいいの?いいかな?玄関だけど。嗚呼、聖・バレンタイン牧師ほんとグッジョブ。)


「よし、もり……」

甘く囁いてやれば、俯けていた頭をふわり、此方へ見上げて。
(いいんですねいいんですね。ありがとう日本。ありがとうバレンタイン商戦。)
にこり、微笑んで言いました。

「何人居たか分かんなかったけどさー、結構沢山入れてあるから!」

「……ん?」

「あっそれと―――、
 これが羽鳥さんで、これは…影宮のな!
 間違えんなよ、一応世話になった人のは分けて、

 ……なに、どしたの。」

「…やぎょうのひとたちにもあげるの?」

「はあ?何言ってんだよ、
 っだーーからさっきからそう言ってんだろお前人の話聞けっつのバカ兄貴。

 『これ全部、夜行の人達に作った』んだってば。」

えーと、それからこれはー、
そう言って引き続きますのは、『宛名の付いたチョコレートを取り出す大会』。
えーと、このやたらと可愛い包みが羽鳥のね。それからこのハートのが閃のか。はいはい。分かりました。本拠地に着く頃にはぜんぶ俺の胃袋の中だな。あー幸せすぎて涙がでそう。

「……全員滅していいかな」

「え、何か言った?
 ああ、これ?黄道さんのだよ。」

黄道にも有るのか!!ていうかお前何時世話になったあのゴツキモ坊主に!戻ったら一番に滅してやる!!

「……良守、俺は急ぎの仕事があるからそろそろ…」

頭の中に並べた『滅リスト』は随時更新中。急いで実行しないとね。
良守君、俺、夜行が全滅した暁には実家に戻りますから。いいよね。待っててね。

「えっ……ああ、


 ……もう行く、のか」

おやおやどうしてだか良守君、寂しそうに呟きます。
(そうだねまだ言い終わってないもんね。)
夜行全滅まで残り9人とあいなりました。


「――じゃあ、」

「ちょっ……、ま、

 …あーーくそ、ちょっと待ってろ!!動くなよ!!30秒な!!!」

はいはい、ヨーイどん。
絶命へのカウントダウン、スタートです。



……ふー。
大きな溜め息も洩れるものだよ。
ああ、なんて優しい子。
兄ちゃんの仕事場の人にも作るなんてね。
ちょっと待っててな良守君。皆を滅したその後は、俺はお前をチョコフォンデュにして残さずぜーんぶ食べてあげるよ。



「―――これっ!!」

「はいはい。」

ん、
差し出されたのは、タッパーに入った可愛いトリュフ。
誰宛かな?
可哀相にねラッピングどころかタッパーに入れられちゃってまあ、かっこ鼻でわらい。

「…あの、一応、兄貴にも……作ったんだけど」

「うんうん『あにき君』ね、」

(あれそんな奴夜行に居たかしら。)

「……何言ってんだオマエ?」

「…………え、俺?」

「当たり前だろばーか!」



あ、そうか、

アハハ。



あははのは。
いやー愛を感じるなあ、トリュフ・イン・タッパー。
要するに『返しにこい』って事でしょう?
うふふ、良守君たら積極的!

「……顔キモいんだけど」

「おいおいそれは言い過ぎだぜ、照れ隠しにも限度があるよ」

「っ照れてねえ!


 ………ほんとはさ、
 今日の夜ちゃんと作る予定だったんだけど、な。

 帰るなら仕方ないし…余りで悪いけど」

「あー、今解決したみたい。」

「何がだよ」

「大人の事情。
 とゆーわけでもう一泊していくね(はーと)」

「語尾がきもい」

「因みに良守知ってる? チョコレートってね、催淫効果があるんだよ。」

「さいいん…?」

「つまり食べたらえっちな気分になるんだよね。」

「なっ……!!」


ねー。だからすきな男性にチョコレートあげるようになったんだね、積極的だねー。あはは。昔はほんとに媚薬として扱われてたんだぜチョコレートって、すごいよねー。


「夜は一緒に作ろうか?」

「それ持ってさっさと出てけ変態。」

「そんなこと言うお口には、お仕置が必要かなあ」

「なっ、ばか!こら触んな変態!はなせエロ坊主、ちょ、はなっ……や、やだやだやだやめろはなせクソ兄貴!!!」

「あ、これ美味い。」

「食うなばかっ!」

「おお、流石愛が籠ってるだけあって、兄ちゃん一粒でめろめろだ。」

「うわあ!ちょ、尻撫でんな!!

 …っだーーもう!
 てめっ、吐け!今すぐ全部吐きやがれ!」

「あはは、心配しなくても良守なら別腹だしいくらでも入るから、

 ……いやいくらでも挿れてあげるから。」

「変な方向に訂正すなっ!!」




あまい香りに誘われて、
ふたりで蕩けた冬の午後。







∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
催淫効果はばっちり効きましたとさ。
ハッピーバレンタイン!

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