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06
「ちょっと、アンタたち力業に出るわけ!?」

街の外から結界をくぐり橋を渡ると、大きく開けた通りがある。諍いはそこで起きているらしく、ユーリたちが取っていた宿屋からそれ程離れていない為口論している内容は丸聞こえだった。

「あぁ!?テメェらが不手際なのが悪ぃんだろうが!」
「それは悪かったわ!だけど、こんなとこど暴れるのはやめて頂戴!」

野次馬たちによってここからでは当人たちの姿が見えないが、声からして男と女、商人と客のトラブルといったところだろうか。
しかし、ユーリがわざわざ仲裁に入ってやる義理もないし、特別興味もない。彼はそのまま宿屋へ入ろうとドアに手をかけた。が、隣の男は違ったらしい。

「この声…カンフマン?」
「……知り合いか」
「あー、知り合いっていうか…『幸福の市場』の社長よ」

シュヴァーンとして任務についていた時に何度か顔を合わせたことがある女社長。なかなかのやり手で、今や『幸福の市場』は流通の最前線にして最大手の商業ギルドだ。

「ふ〜ん?ってことは“レイヴン”とは面識がねぇってことだな?」
「うん、そうだけど…って、ちょっとぉ!どこ行くの少年!」
男からの返答を聞き、にやりと笑みを浮かべると、ユーリは真っ直ぐに事の中心地に向かって行った。先ほどまでは我関せずというような態度であったのにどうしたことか。

軽快に駈けて行く少年は悪戯を思いついた子供のような表情で、レイヴンはとても嫌な予感がした。



*****

メアリー・カンフマンは困り果てていた。

いつもの様に各所から品を揃えていると、一部品数が足りないことが分かった。部下の話によれば合成する上で必要な素材を採取している場所に魔物が大量発生しており、通常より少ない納品になってしまったらしい。
そこへ大柄の男がやってくる。
彼女は嫌な予感がしたが、いつものように笑顔で彼を迎えた。


「うるせぇよ!」
「!!」

結果から言えば彼女の勘は当たっていた。左頬に傷痕のある大男は丁度不足していた品を要求してきて、それがないと知ると癇癪を起こし始めた。
ダングレストはギルドの街だけあって武器やアイテムの需要も高く、商売にはもってこいの場所ではあるが、ギルドという性質故か荒くれ者が多いのは困りものだ。
喚き散らす男をカンフマンと共に行動していた部下が宥めようとしすると、男は腕を振り回し彼の腹部にのめり込ませた。うずくまる彼にカンフマンが駆け寄る。

「うちの部下になんてことしてくれんのよ!」
「うるせぇっつってんだよ!」
再び棍棒のような太い腕振り上げられる。あの剛腕で殴られたら軽く吹き飛ぶだろうことは想像に難くない。

「…っ!!」

彼女は反射的に目を瞑った。

ガッ…!!
「うぐっ…!」

鋭い風の流れが生じ、衝撃音が鳴る…が、カンフマンには何も起こらなかった。
怪訝に思った彼女が目を開けると、何故か殴りかかろうとしていた男は数メートル横に飛ばされて伸びている。そういえば低い呻き声が聞こえた気もするが、あれはあの男のものだったのだろうか。しかし何故…

「お姉さん、大丈夫?」

呆然としていると、幼さの残る少年の声がした。
振り向くと漆黒の艶やかな髪と紫紺の瞳を持つ小柄な少年が立っていた。

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あきゅろす。
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