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03
―――ねぇ、ゆーり?
ゆーりはいつも何をしてるんです?
ゆーりの好きなことは?
好きな食べ物は?

―――なんでそんなこと聞くんだよ

―――??
なんで?フツウのことですよ。

だって、わたし
ゆーりのことがだいすきですから!

*****

「ゆーりっ!」
「あ?」
「ユーリがぼーっとしてるなんて珍しいわね。大丈夫?支度出来たけど、行ける?」

窓際に腰を掛け、立ち並ぶ建物に阻まれたことで狭まった星空を見上げていたユーリは、少し焦ったような同居人の声によって現実に戻された。いつの間にか物思いに耽りすぎていたらしい。他者の気配に気付かないどころか声を掛けられても呆けているなど、確かに自分らしくない。
いくら考え事をしていても人の気配を感じればすぐさま反応しないなどということは今までなかった。しかし、そうなると考えられるのは…

(まさか、俺はこのおっさんの気配を容認した…?)

いやいや、そんなまさか。
ユーリは自分で出した考えをすぐさま否定した。ここ数ヶ月を共に過ごして、この男がユーリに危害を加える可能性は少ないという程度にはユーリも彼を認めているし、実際彼らの上司であるアレクセイからも信頼における奴だと言われている。だが…

「ユー…リ?」

じっと見定めるようにシュヴァーンを見つめてきたユーリに今度は困惑したように彼が声をかけた。ちらりと見た表情は不安げで心配されているということが一目でわかる。
それがなんだかむず痒い。

「あー…相変わらずそっちはうっさんくさくて、おっさん臭いなぁ、と思ったんだよ」
「ちょっ、ひどい!俺これでもまだ20代よ!?」
「嘘つくと閻魔サマに舌抜かれるんだぜ?新人隊長サマ」
「嘘じゃないですーー!!ユーリくんのばかっ!」

 その慣れない感情とむず痒さを打ち消すために、同居人を揶揄すると、彼は想像した通りの反応を返してきた。
 この男は日中は『シュヴァーン』として隊長の責務をこなし、夜は『レイヴン』としてユーリと共に行動している。
『シュヴァーン』と『レイヴン』、かれらが同一人物だと知っているのは今のところこの二重生活を命じてきたアレクセイと、同居人であるユーリのみであり、これからもそうあるべきだとアレクセイからきつく言いつけられている為、『シュヴァーン』は『レイヴン』になる際に変装をする。
そして、彼の変装が巧みすぎるが故か、同一人物であるはずなのにレイヴンとシュヴァーンでは非常に印象が変わるのだ。口調、仕草、雰囲気。本当に二重人格なのではないかと疑ってしまうほど見事な『変装』だった。

ひょいと窓枠から降りて、事前に用意して置いた荷物袋を肩にかけると、ユーリはすたすたと歩きだした。

「んじゃ、支度出来てんならそろそろ行くぜ。…今回は遠出だからな。」
「そういや、行き先は?」
「ダングレスト」

素早く本棚の裏に続く脱出口から外に駆け下り、城の裏手にまわるユーリを“レイヴン”は追いかたが、その予想外の返答に思わず足を止めた。
騎士団員が生活する寮にほど近いこの場所で立ち往生は好ましくない。ユーリはグイッと派手な羽織りを掴むと、踏鞴を踏む男をお構いなしに引っ張りだした。

「今回の行き先。ダングレスト。聞いてねぇ?」
「だ、ダングレスト!?きいてないきいてない!だって外泊手続きとか色々やってないわよ俺!?それにあそこってギルドの巣窟でしょ!?」
「だからこそ行くんだよ。こっちじゃ手に入んねぇ情報もわんさかあるだろうしな。それに、書類云々はどうせ最終的にチェックすんのがアレクセイなんだから大丈夫だろ」
「それって俺は拒否権無しの事後承諾ってことよね…」


なんか文句あんなら上司(アレクセイ)に言ってくれ。
ユーリは、ニッと悪戯っ子のような笑みを浮かべると、城から下町に続く裏道を通り闇の中へ滑り込んだ。

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