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02-1
「失礼致します」
「来たか」
「…」
夕闇に空が覆われた頃、ユーリは騎士団長執務室に訪れていた。
部屋の中央、大振りな机に座すアレクセイは視線を卓上の書類に向けたまま語りかけてきた。決してこちらに視線を向けないのはいつものことだ。
そして、空が黒に侵され始める頃、こうして呼び出されるのもいつものことだった。

幼い頃にアレクセイに拾われ、育てられた彼は気がついた時にはアレクセイの為に働いていた。
彼の行動が『外の世界』へどう影響しているのか彼は知らないが、彼にとっての世界はアレクセイであった為そんなことはどうでも良かった。彼の世界が守られるなら、それだけで充分だったのだ。
しかし、そんな彼の世界に変化が訪れたのは数ヶ月前。

人魔戦争の終戦。

あの日以来、アレクセイの命により、彼の仕事に隊長主席であるシュヴァーン・オルトレインが同行するようになった。仕事だけではなく、今や私生活もほぼ共同。シュヴァーンにも隊長としての仕事があるため、常に共にいることはないが、彼が早上がりするときは特に仕事が入る確率が高い傾向にある。
何を目的として彼の義父がシュヴァーンと引き合わせたのかは定かでないが、少なくとも彼を『こちら側』に引き入れるつもりだということは分かった。
そして、シュヴァーンが早上がりとなった今日、きっとまた命が下るのだろう。

「今日はここへ行ってもらう。」
暫しの間、カリカリとペンが走る音を聞いていると、スッと机脇の引き出しから簡易な地図が出された。ユーリはそれを手に取り、指定された場所と対象を頭に叩き込むと勢い良くビリリッと破り捨てた。
自分が関わる事柄に関してはなるべく跡を残してはいけないからだ。
「他には…?」
「今回はこれだけだ。…だが、」
「…っ!」
首もとに巻かれたストールを強引に引っ張られ、息が詰まる。
デスクを挟んだままに引き寄せられたせいで腹部に角が当たり苦しかったが、ユーリは唇を引き締め、生理的に出そうになる涙を堪えた。

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