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01
「此度の戦において我々人間は多大なる犠牲と被害を受けた。しかし、我らはここで挫けるわけにはいかぬ。犠牲となった尊き命のためにも、更なる繁栄と安寧を築き上げねばならぬからだ」
壇上に立つ銀髪の男は朗々と人々に語りかけた。

人魔戦争。
人と魔物の争いによって起こった戦いは各地に深い爪痕を残し、戦に馳せた者の多くは死んだ。
結果としては、人間側の勝利となったが、何故このような大きな戦となったのか等の詳細は未だ不明。戦後の復興支援や騎士団内の人事調整に追われる日々を送っていた。
そんな中、行われた平和式典。終戦を祝し、犠牲者の冥福を祈るそれは、騎士団長アレクセイ・ディノイアの言葉によって締めくくられた。人々の歓声や嗚咽、列を成していた騎士たちが動き出したことで鳴る鎧の音を、アレクセイの横に控えていたシュヴァーンは無感動に聞き流していた。


*****
「ねぇユーリ、ユーリ…ちょっと聞いてる?」
式典も終わり、ようやく一息つけたため遅い昼食をとろうと、自室に戻ると、これまた呆れた光景がそこにあった。
「…あー、はいはい。聞かなくてもわかってっから」
眼前にあるこんもりと膨らんだ布の塊がもぞもぞと動く。しかし、その返答とは裏腹にやや黄ばみかけた白布から艶やかな黒は一向に現れない。その塊を睨みつけるように立っていた男は溜め息をついた。
「いやいや、それわかってないっしょ。ってか、わかってんなら出てきなさいよ」
「ヤダ。俺、今期間限定ニート中だもん」
布越しでくぐもった声に男の眉間がピクリと動く。
こうなったら最早最終手段だ。
男は裏葉色の瞳をすっと細めると、ゆっくりと息を吸い、白布を握る手を勢いよく振り上げた。
「あのね…やることなくても半日以上ぐうたら寝てないの!いい加減起きなさ―い!」
騎士団寮の一角から男の叫びかあたりに響き、木々の枝に休んでいた鳥たちが快晴の空に散った。




「ねむ…」
「10数時間寝といてまだ眠いの?少年」
朝も昼もとうに過ぎた夕刻。
まだ欠伸を噛み締めている小柄な少年は本日最初の食事についていた。
目の前に並ぶは見事な和食の数々。そして、机を挟んだ向かい側に座す深い茶髪の男、シュヴァーン隊隊長サマはニヤリと笑いながらのたまった。
「そんな寝てるから身長伸びないんじゃないの?ユーリくん」
「関係ねぇだろ。むしろ、おっさんがしょっちゅうひとの頭ぽんぽん叩くから伸びねぇんじゃねぇの?」
「え、何俺のせいなの?俺の褒め方がいけないの?」
不本意だと言わんばかりの眼差しを受け流し、ユーリは箸で中央に置かれた漬け物をひょいと摘んだ。
「で、今日の予定は?アンタ、普段ならまだ仕事中だろ?」
「今日は式典だったし、このまま早上がりになってんの。」
「へー…ご苦労なことで。足引っ張んなよ」
「ユーリ君こそまた無茶しないでよね」
いたずらっ子のように無邪気に笑う少年に、シュヴァーンはどこかが痛むのを感じながら笑って返した。










本日晴天。
しかし、今夜は、
小さな嵐が巻き起こるでしょう。

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