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帝都ザーフィアス。
騎士団の警護と結界魔導器によって守られた街の裏通りを派手な色彩が駆け抜ける。
周囲は既に夜の帳を下ろし、魔導器と星々が世界を照らしていた。人々の多くは床につき、静まり返った街に複数の足音が響く。

いい加減追いかけっこはもう飽きた。

男は、この先のルートを思い出しつつも、後ろから迫る気配に神経を研ぎ澄まし、苦笑いを浮かべた。
(5人…いや、8人か)

久しぶりの仕事だった為か、ドジを踏んだ。こんなことで足をつかれては上司から何を言われるか分かったものではない。
しかし、このままでは追いつかれる。どこかで撒かなくては、それかいっそのこと…。

「ぐああぁ!」
「がふっ!」
突然の断末魔に思考が途切れる。先ほどまで途絶えることのなかった背後の足音が止み、かわりに悲鳴や呻き声が重なる。さらにガンッ、ゴンッと物がぶつかり合う音があとを追った。
カラン、と店の資材として積まれていたのであろう缶が、暗闇から足元に転がってくる。
コツコツとブーツを鳴らして闇から姿を表したのは、更なる闇。赤と黒を基調とした服を纏う少年だった。
「…少年」
「アンタ、マゾか?わざわざアレクセイに怒られそうなことしやがって、オシオキされたいのかよ?」
紫紺の瞳が嘲るように笑う。
片手に握られた獲物から滴る赤が月光に照らされて嫌に目についた。
男がソレから目を逸らしたことに気づいた少年は、軽く獲物を振ると鞘に収めた。
「んなわけないでしょ。」
「それかオレがイジメられんの見たいわけ?」
「違うわよ!!そもそも少年はなんで…!」
逸らしていた視線を勢いよく戻し、紫紺を睨むように見つめ返すと、少年は意外にもきょとんとした表情をしていた。
少年の細い両肩を掴み、小さな体を見下ろす。
そう、この子はまだこんなにも幼く小さいのだ。
言葉を詰まらせていると、ガチャガチャと鎧具を鳴らして近づいてくる者に気づく。警備の騎士が異変に気づいたのだろう。
「おー、働き者の騎手様も居たんだな」
「感心してないで行くわよ!」

ニヤニヤと笑うだけで動こうとしない少年をひょいと抱き上げると、男は再び路地の一角に入り、木箱を踏み台に屋根へと上がる。

月明かりが近くなり、二人の顔を照らす。



少年の頬に付着した赤が風に煽られて空に舞った。


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