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08
鬱蒼と茂る森は蔦と木々によって行く手が幾重にも阻まれている。太陽に照らされた樹木は青々としており瑞々しいが、その異常な繁殖は癒やしの前に畏怖の感情を彷彿させた。
「うはー…こりゃまたデカい森。マジでこん中探すの?」
「おっさん、探しもん増やすなよ」
「それ、迷子になるなって意味?それならユーリくんの方が見失い易そうよ…ちっちゃいし」
現にその姿を隠さんとするかのように、伸び放題生え放題の草木が彼の上に覆い被さっていた。強ち冗談ではすまされないかもしれないな、とレイヴンが内心で呟くとギロリと鋭い視線を寄越された。
「なんか言ったか?」
「ナンデモアリマセン」
顔は可憐、笑う姿は修羅の様だった。



ユーリとレイヴンはカンフマンからの依頼でケーブ・モック大森林に来ていた。
依頼内容はケーブ・モックの奥地に群生するという植物の採取。
たかが採取。されど採取。
素材一つといえどもその一つが欠けてはアイテムや武器が合成出来なくなるのだから重要な任務である。
実際今回の採取はそのアイテムが不足しているが故に納品が間に合わなかった品を早急に入荷するためだ。

『素材の入手とついでに少し魔物を減らしておいてくれたらちょっぴりサービスしちゃうわよv』

カンフマンのサービスとやらが如何程のものかは定かでないが、世界を叉に掛ける『幸福の市場』の社長である。恩を仇で返されることはないだろう。
それにここで彼のギルドと縁を作っておけば情報収集する上で役立つこともあるはずだと彼らは踏んでいた。

「ねぇユーリ…確かにあのギルドと接点持てればそりゃいろんな情報貰えるだろうけどさ、そもそも何でお伽話のことなんて調べてんのか知ってるの?」

周囲を警戒しつつも足早に歩を進めていると、レイヴンが尋ねてきた。
二人の上司であるアレクセイの意図が気になるらしい。確かに彼に任務内容は嫌というほど聞かせたが、目的などは一切伝えたことがない。
火のない所に煙は立たないと言うが、それにしても対象が不確かすぎることが否めない。
ユーリは飛んできた鳥型の魔物を一太刀で斬り伏せながら口を開いた。

「知らねぇ」
「へー…って、知らないの!?」

あまりにも当然の様にあっさりとした返答であった為うっかり相槌を打ってしまったが、直接命を受けた彼ですら知らないとはどういうことか。
任務とは内容もだがその目的なども伝えられるものではなかっただろうか?それも騎士団長直属の部下である彼にすら伝えられないとは…国としての極秘任務だということは自覚していたがまさかここまでとは。『シュヴァーン』には伝えられずともユーリだけは知っていると踏んでいたのだが。

「別に俺は興味ねぇし。言われたかもしんねぇけど覚えてねぇわ」
「いや、興味ないって…必要事項でしょーよ。それにユーリ君にとってはあの人って上司である前に『お義父さん』なんだし。父親がやってることよ?気にならないの?」
「……」

そう、眼前の少年と上司の親子らしい場面を見たことはないが、彼らは義理とは言え親子関係であるらしい。
レイヴンの両親は既に他界しているが、幼い頃自分の父親が何をしているのか気になり何度か仕事場について行ったこともあった。それとも、今時の子は親のやっていることなど興味はないということなのか。

「俺は…ーーーー…」
「…え?」

男が心中で思考を巡らしていると、ぽつりと声が聞こえた。
それはとてもか細く、聞き逃してしまいそうなほど小さな声で、いつもの皮肉ったような口調でも淡々とした冷めた口調でもない。

「ユーリ…?」


「キュィイイイ!」

その時、魔物の甲高い鳴き声が耳をつんざく。

「話は終わりだな。お出迎えだぜ」
「うっわ、俺ら凄い歓迎されてんわね…」
木々の葉が揺れ魔物の鳴き声が響く。
左右正面はもちろん、蔦や枝葉にまで、無数の影。それらの視線はギラギラとしており、敵意が此方に向いていることは明らかだった。
「想像はしてたけどな。“あの”幸福の市場が材料を不足させるってことは余程の理由があるはずだ」
最大手の流通ギルド。もちろんその信用を失わない為に彼らは他のギルドと連携を組み、常にその品揃えと品質を保てるように大勢を整えているはずだ。
そのギルドが魔物に妨害され素材を揃えられなかったということはある程度のレベルは保持されているだろう傭兵ギルドがかなわなかったということだ。
「少年…おっさん腰痛が…「おっさん!上は任せたぜ!」
「うえええちょっとぉぉぉお!?」

レイヴンの叫びと共に森の至る所から魔物たちが飛び出した。

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