[携帯モード] [URL送信]
紙面裏の理由




ぴょこぴょこと、ぎざぎざの大きなしっぽを揺らすピカチュウは、可愛い。
とてつもなく、可愛い。
そして、ふわふわのしっぽを揺らすイーブイも、負けないくらいに、可愛い。
きゅう、と、イーブイが鳴くと、ピカ!と返事をするように鳴くピカチュウ。
なんだこれは、楽園か。
そんな二匹を膝に抱えながら、レッドは、ほんの少しぬるくなったココアを飲む。
うん、今日も甘くて美味しい。
牛乳を沸騰させないように、じっくりと弱火で暖めて作られたココアは、レッドの好きなものの一つだ。

ピカチュウ。
イーブイ。
甘いココア。
全部全部、好きなもの。
それから、好きなのは。


「……そんなに見られると、居心地悪いんですけど、レッドさん」
「………」
「聞こえないふりするな!」


グリーン、も。

「すき」
「は?」

うんうん、と、一人でレッドは納得して、また、ココアを飲む。
膝上で戯れるピカチュウとイーブイが、ついついそんなレッドの腕に当たると、隣に座っていたグリーンがそれをみかねて、二匹を抱き上げた。
ちなみに、ココアが零れることはなかった。

「こら、ピカチュウ、イーブイ、気をつけないとだめだろ。レッドにココアがかかる」
「…きゅう」
「ピ…」

グリーンの膝から、レッドをちらりと見てくる、まん丸の愛らしい瞳に、レッドは、ついつい笑みを零して、大丈夫だよと言いながら、二匹の頭を撫でた。
そうすると、嬉しかったのだろう、ピカチュウがもっとというように頭を擦りつけてくる。
イーブイは、グリーンに甘えるように、グリーンの腹部に顔をうずめた。

そんな緩やかなひと時を、寒いシロガネ山で過ごしていると、グリーンが、ふと思い出したように口を開いた。

「そういえばレッド、お前、ヒビキとコトネに何か変なこと言ったか?」
「…へんな、こと?」
「なんか、あいつら、最近、バトルしようってやたら連絡してくるんだよな。ったく、こっちは忙しいってのに…」

なんて言いながら、ほら、と、グリーンのポケギアを見せられる。
そこには、見事に、履歴部分を埋める、ヒビキとコトネの名前。
ほぼ交互にかけてきているようなそれに、レッドは、ぱちりと瞬きを、一度した。
ピカチュウも、それを覗き込み、分かっているのかいないのか、ピカァ…!と声を上げる。
ポケギアに興味をもったのか、触ろうと、小さな手を伸ばすピカチュウに、だめだよと声をかける。
レッドのピカチュウのとくせいは、せいでんきだ。
もしかしたら、グリーンのポケギアが、その小さな電気で壊れてしまうかもしれない。
ピカチュウがレッドのポケギアに触れても壊れないけれども、なぜか、グリーンのポケギアに触れると、ぱちんと音がして壊れてしまうことがあるのだ。
しゅんと、耳を下げるピカチュウの頭を撫でながら、レッドは、グリーンの方へと、少しだけ、身体を寄せた。

「すごいね、ヒビキとコトネで、いっぱい」
「誰かさんが全然連絡してくんねーから」
「だって、誰かさんが連絡しなくても、きてくれるから」
「………うるさい」

くすりとレッドが、小さく笑みを零すと、グリーンは、お前なあ、なんて言いながら、レッドの頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
ちなみに、帽子は取られて、イーブイにぽすりと被せられている。

「で、お前、なにか原因知ってるだろ?二人とも、レッドさんが、って言ってたしな」
「ぼく、が?」

はて。
何か言っただろうか、レッドは小さく首を傾げて考える。
ヒビキとコトネが、グリーンとバトルをしたがる、理由。
しばらく考えて、レッドは、小さく、あ、と、声を零した。

「グリーンは、もっと、強いよ、って教えてあげた」
「は?」
「だから、ぼくとバトルするときの、みんな」
「あー…なるほど、な」

そういうことか、と、グリーンは納得する。
要は、ヒビキとコトネは、対レッド用パーティーでバトルしてほしいと言っているのだ。
確かに、グリーンは、バトルによっていくつかのパーティーを使い分ける。
たとえば、ジム用パーティーだとか、自分の趣味で編成されたパーティーだとか、そして対レッド用のパーティーだとか。

ヒビキとコトネとバトルしたときは、たしかに、ジム戦で使っているパーティーだった。
だからといって、手抜きをしたわけではない。
グリーンは、いつだって本気だ。
むしろ、ジム戦なら、なおさらだ。
だって、自分は、カントー地方、最後のジムリーダー。
セキエイ高原へと向かうトレーナーたちの、最後の砦なのだから。
それなのに、手抜きをするはずがない。
ただ、本気でバトルをしたら、きっと、セキエイ高原へと挑戦する者がいなくなってしまう。
なぜなら、グリーンだって、元は四天王を倒した、チャンピオンなのだから。
だから、ポケモン教会から、いくつかの制限をされている。
それが、レベルだ。
グリーンの手持ちの中では、幾分か低いレベルのポケモンたち。
それでも十分、挑戦者たちには高いレベルだ。
それで、バトルをし、その間に、トレーナーとしての資質を確かめる。
それが、グリーンの仕事。

だからこそ、グリーンが他にもバトル用のパーティーを持っていると知った後輩たちは、それでバトルがしたくてたまらないのだろう。
ジムリーダーのグリーンではなくて、ただ一人のトレーナーのグリーンと。

しかし、それには一つ、問題があった。

「バトルしてあげればいいのに」
「それもそうなんだけどな…どうするかな」
「ぼくとバトルするときのみんなは?つよい、のに」
「それなんだけどなー…」

うーん、と、考えるグリーンの腕は、いつの間にかレッドの腰回る。
そのまま膝上に乗せられると、レッドの肩に、グリーンは顎を乗せてきた。
くすぐったいな、なんて思いつつ、レッドはそのままにして、ピカチュウとイーブイを再び自分の膝上に乗せる。
グリーンに抱きしめられて、膝上にピカチュウとイーブイ。
暖かくて、眠くなりそうだ。

けれども、まどろむ思考の中で、レッドは、どうしてこんなにもグリーンが考え込んでいるのかが分からなかった。

グリーンは強い。
確かに、後輩であるヒビキやコトネも強いけれども、レッドが今までバトルしてきたトレーナーの中ではグリーンが昔も今も、一番だ。
そう、昔から、彼は強かった。
レッドが、本能で戦うのなら、グリーンは、その知識で戦う。
それが、こうして成長した今、さらに彼を強くしているのも、レッドは知っていた。

「ぼく、トリックルーム、すきじゃない」
「ははっ、あれは使いどころが難しいからな」

トリックルームという言葉に、グリーンは、つい、笑う。
膝上にいたピカチュウも、その言葉に反応して、不満そうに、グリーンを見つめた。

そう、最近のグリーンは、自分が知らない間に、新たな技やポケモンをパーティーにいれるようになった。
その一つが、トリックルームだ。
その技の効果範囲内では、素早さの高いものと低いものが、かわる。
ピカチュウなんて、何度その技で自慢の素早さを無にされたものか。
他にも、例をあげればきりがない。
とにかく、レッドが、昔も今も、バトルのときに感じる、あのわくわくもドキドキも、グリーンがくれるのだ。
他のトレーナーとのバトルでも感じるけれども、やっぱり、グリーンとのバトルが、一番。

「まぁ、でもあれは、レッド専用だからな」
「ぼく?」
「そう、レッド専用。だからヒビキやコトネには、お前ほどあのパーティーの強さは分かんねーよ」

ちらりと、振り返ってみると、グリーンは、にや、と、いじわるに笑う。
それって、ようするに。

「……グリーンってさ、けっこう、暇、だよね」
「はぁ!?おま、俺がどれだけ苦労してここにきてると思ってるんだよ!」

呆れたように、レッドは、そういうと、ピカチュウとイーブイを抱き上げて、そのまま二匹の鼻先にキスを落とした。
グリーンの騒ぐ声は、無視をして。

なんとなく、耳が赤くなったのは、寒さのせいだと、思う。







紙面裏の理由
君へのメッセージ







[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!