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ロンリー・ラビット




かりかりと響く、小さな音、ペンの音。
振り向くことのない、背。
こっち向け!と、いくら念じても、振り向くことはなくて。
むしろ、相手の性格からして、集中してしまっている分、余計に振り向くことはないんだろうな、と、不貞腐れる。

ごろん、と、せめてもの仕返しに相手に背を向けるように寝返って、レッドは、ぷくりと頬をふくらませた。




(なんだよ、やっぱりおればっかり、好き、みたいだ!)



ことの始まりは簡単だ。
普段は旅をしているレッドが、ふらりとマサラの地に戻ってきたところから始まる。
何か理由があるのかと言われれば、困るところだけれども。(ただ単に、グリーンの顔が見たかったんだ。)

故郷のマサラタウンに帰ってきて。
ブルーに会って。
一緒にお茶とかして、おごらせられたり。
そんなこととかして。
それで、やっぱり、グリーンに会いたくて。
様子見にきたジムは、もう閉まっていたけれども、一つだけ明かりがついている部屋を見つけて。
そこにたまたま、書類整理をするのにのこっていたグリーンがいた、だけ。

(そりゃ、たまに会えたとは言っても、グリーンが忙しいって知ってて一緒にいたいって言ったのはおれだし。そんなことは分かってるけどさ。でもさ、久々に会えたんだし、ちょっとくらい期待したって、いいだろ!)

別に、なにを、とは、言わないけど!

ただ一緒にいられるだけでいいからと、グリーンも作業部屋に入ったレッドは、静かに静かに、彼の仕事が終わるのを待っていた。
元をただせば、今、グリーンがやっている仕事も、本来はレッドの仕事になっていたであろうものだ。
それをやってもらっている以上、文句なんて言える立場ではない。
そう、文句なんて言える立場ではないということは、レッド自身も、よく分かっている。

けれども。

(仮にも恋人を三時間も放置はないだろ!三時間もっ!!)

さすがに三時間は、レッドも、飽きた。
待たされている間も、グリーンは、最初に部屋へとレッドを招き入れた以外に会話もしてくれない。
そんなグリーンに、レッドは、転がっていた簡素なベッドのシーツをめくり、その中に潜り込む。

もう不貞寝だ、不貞寝!

こういうときに限って、レッドの仲間たちは、みんな、ポケモンセンターに預けてしまっている。
だから、暇だからと相手になってもらうこともできず。

ごそごそとシーツを、頭からかぶって、目を閉じる。
すると、ふんわりと、グリーンの匂いが、鼻を掠める。
安心する香り、落ち着く香り。
それに、レッドの眉間に寄っていた皺が、緩む、が、すぐにまた、レッドは口をへの字に曲げる。

(…本人がいるのに、なんか虚しい…)

はあ、と、レッドは、大きくため息をついた。
小さくだなんて、そんな遠慮はしない。
どうせ、グリーンだって気がついてないさ。
すっかり拗ねたレッドは、もんもんと、思考を下げていく。

(やっぱり、好き、なのっておれだけなのかな。グリーンの言ってる、好き、は、おれと違うのかな、おれはこんなに好きなのに、我慢できないのに、)

もぞ、と、体を丸め、目を閉じる。
とける思考、おちる意識。
もう一度、つむぐ、ため息。

「ため息だなんて、似合わないな」
「…誰かさんが、放っておくからですー」
「拗ねているのか?」
「拗ねてない」
「そういう奴ほど、拗ねてるものだけどな」
「……グリーンのばーか」

ふ、と、できた、目を閉じていてもわかる影。
それとともに、かけられる言葉に、レッドは、つい緩んでしまう口元をシーツで隠しながら、目元だけを出し、答えた。

そこにいるのは、やっぱり、グリーンで。
くすりと笑っている姿に、余裕そうだと思ってしまうと、ついつい眉間に皺が寄ってしまう。
そこに、唇を落とされても、自分がこうして悩んでいるのに、と考えてしまえば、ぷい、と、つい顔を背けてします。

「で、何をそんなに怒っているんだ?」
「別に怒ってないってば。ただ、グリーンは忙しそうだなって思ってただけ」
「…あぁ、かまってやらなかったから拗ねてるのか。寂しかったのか?」
「だ、だから!寂しくないし、拗ねてなんかないってば!」

せっかく、視線を外していたのに、ついつい反論するのに顔を向けてしまえば、そのまま顎をすくわれて、ちゅ、と軽く唇を重ねられる。
触れるだけのそれに、ぱちぱちと瞬きをしていると、グリーンは、それをいいことに、レッドの上に覆いかぶさってきた。

「寂しかったんだろう?」
「だから、寂しくなんて…!」
「でも、放っておかれていじけてたじゃないか」
「それは、グリーンの邪魔にならないように……って、もしかして、グリーン…怒ってる?」
「なぜ?」

何度も問われる、寂しかったかという言葉。
それを認めてしまうのは、なんだか癪で。
レッドは、ついつい反論してしまうものの、途中で、あれ、と首を傾げて、考えた。

グリーンは普段、こんなにもしつこく問いかけてきただろうか?

恐る恐る、怒っているのかと問いかけると、すぅ、と、グリーンの目元が細まる。
それに、レッドは、今までの苛立ちも忘れて、冷や汗を流す。

(怒ってる…!グリーン、怒ってる…!なんで!?)

おれ、静かにしてたのに!!!

グリーンの邪魔をしないように、大人しくしてたのに!
三時間放置されても、ずっと待ってたのに!
それなのに、挙句、グリーンは、怒っている!なんで!!

ががん、と、分かりやすいほどに慌てて、そして動揺している、そんなレッドに、グリーンは、はあ、と、ため息をつく。
そして、こつん、と、自分の額を、レッドのそれにあてた。

「長い間、放っておかれて、どうだった?」
「…つまらなかったし、寂しかった、です」
「それだけか?他には何も考えなかったか?」
「………もしかして、好きなのっておれだけなのかなー、とかって、思った……」
「そういうのを、不安になるっていうんだ」

そこまで言うと、グリーンは、言葉を止める。
そして、じい、と、レッドの紅い瞳を、その翡翠の瞳で見つめた。
その視線に、レッドの視線が、揺れる。
それから、はっと、気がついたように、目を見開いた。

「……もしかして、おれがずっと連絡しなかったら、寂しかった…?」
「………心配、したんだ」

やっと気がついたか、なんて、言いながら、もう一度ため息をつくグリーンに、レッドは、あはは、と、乾いた笑い声をあげた。
それにじろりと睨まれると、そんな笑い声もすぐ止まってしまうけれども。
そして、小さく、ごめんと謝る。

確かに、レッドは、しばらく、まったくと言っていいほど、グリーンに連絡をいれていなかった。
それは、元々のレッドの性格もあるだろう。
つい、忘れてしまうのだ。
そして、そのまま、ポケギアの電波の入らない場所にいってしまえば、さらに、連絡をとろうと思う気がなくなる。
だって、連絡の入れようがないんだし。

なんて、思っても、目の前にいるグリーンに言ったところで許してもらえないだろう。
むしろ、さらに怒られるような気がする。

「あまり、心配をかけさせるな。…もう、あんな思いはごめんだからな」
「…ごめん。今度からは気をつける」
「その台詞、何度か聞いたがな」
「うっ…こ、今度は忘れないから!な?」

そっと撫でられる、右手首。
ちゅ、と、唇を落とされる左手首。

なぜか、両手首と両足首が、びりりと痺れた気がした。
もうそんなことはないはず、なのに。

きっと、グリーンもそうなのだろう。
こういうものは、本人にも傷跡を残すけれども、周りの人間にも、傷を残すものだから。

ほんの数時間、放っておかれた自分だって、寂しかったのだから。
それを、何日も、何週間も、何カ月もされたグリーン。
自分がしたこととはいえ、申し訳なくなってきたレッドは、今度は、自分から、グリーンの頬にキスをした。

「今度からは、絶対に…連絡する、から」
「わかればいい」
「ん、気をつける」

けれども、やっぱり現金な自分は、こうしてグリーンが傍にいてくれると、こうしてすぐに口元が緩んでしまう。

レッドは、ついつい、緩む口元を隠すことができず、だから、それを隠すように、グリーンに擦り寄る。

「でも、おれだって今、寂しかったんだからな!三時間だぞ、三時間!!」
「さっき、寂しくなかったって言ってなかったか?」
「それはそれ!今から、責任、とってもらうからな!」




覚悟しろよ!なんて、楽しげに笑うレッドに、グリーンも、くつりと喉で笑って応えた。






ロンリー・ラビット
寂しいと死んじゃうんだよ







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