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あまくち オレンジ・ジュース



ぼすん、と、ふかふかのソファーに座る。
外では、今までに出会った仲間たちの楽しげな声がする。
旅だった当初にゲットした子もいれば、つい最近前一緒にいた子。
みんながみんな、サトシにとっての、大切な、仲間だ。

するりとサトシの肩に乗っていたピカチュウは、今度はサトシの膝へと移る。
そんなピカチュウの頭を撫でると、ピッカ!と可愛らしい声をあげて擦り寄ってきてくれる。
今まで、どんなときも一緒にいてくれた、一番のパートナー。
きっと、ピカチュウも、慣れ親しんだこの地に、安心しているのだろう。
いつもよりも、嬉しそうだ。その証拠に、長い耳が、機嫌良くぴょこぴょこと揺れる。

「サトシはオレンジジュースでいいよね?ピカチュウは、ポフィン。甘めだよ」
「サンキュー、シゲル!」
「ピカチュ!」
「どういたしまして」

かちゃりと開いた扉の向こうから、白い白衣を揺らして、シゲルが入ってくる。
そう、ここは、小さなマサラタウンの中でも、一際大きな、オーキド邸だ。

久しぶりに帰った、故郷、マサラタウン。
母との再会を十分に味わったサトシは、そのまま、跳ねるようにオーキド邸へと走って向かった。
一番の相棒のピカチュウは、もちろん大好きだ。
けれども、今までにゲットしてきたポケモンたちも、また、サトシにとって、かけがえのない仲間に変わりはない。
あいつは元気にしてるかな、あいつはみんなと喧嘩してないかな、それからあいつは…。
久々に会える仲間たちに、サトシもピカチュウも、我慢できず、飛びこむようにオーキド邸へと入った。
そして、そこにいたのは。

「それにしても驚いたぜ!まさかシゲルも帰ってきてるとはなー!」
「そうだね、僕もまさか君が飛び込んでくるとは思ってなかったよ」
「う…っ。それは…その、早くみんなに会いたくて…!」
「わかってるよ、サートシくん」

にやりと、からかうように笑うシゲルの姿に、サトシはぷくりと頬をふくらませる。
そんな、変わらない姿に、シゲルはくすくすと笑い声を零した。
もちろん、そんな態度が、余計にサトシの頬をふくらませると分かって。
シゲルの向かい側のソファーに座るサトシは、悔しそうに、でも、どこか楽しそうに反論してくる。
その姿に、シゲルは、つい、ふんわりと目元を緩ませてしまう。

自分の目標を、夢を、祖父のようにポケモン研修者になることとしたシゲルは、日々、努力を重ねた。
たとえ、まわりからまだ子どもだと言われようとも。祖父のことを掛け合いにだされようとも。
それが自分で選んだ道に組み込まれたものだと受け止めて、努力し続けてきた。
今では、ある程度自分の自由に研究をしてもいいと言われるくらいまでには、認められたと思っている。
けれど、それでも、やはり、思うことはあるわけで。
遊びたいというわけではないけれど、自分と同じくらいの子が、友達と楽しそうに遊んでいる姿を見ると、なんとも言えない気持ちになるのは、否めなかった。

そんなシゲルの、幼馴染。

負けず嫌いで、正義感が強くて、少し涙もろい。
子ども、を、体現したかのような、彼。サトシ。
旅をしていたころは、ついついかまいすぎてしまったけれど、今ではそんなことも、もうしない。
反応がおもしろくて、つい、今のようにいじってしまうことはあるけれど。
けれども、そんなサトシは、シゲルの中で、他とは比べられない場所に、位置づけされていた。
シゲル自身も、理解している。
そう、これはきっと、恋、というやつだ。

「ところでサトシ。みんなに会わなくていいのかい?」
「え?うーん…そうだな、今日はみんなに会いにきたんだしなぁ…」

ごくごくとオレンジジュースを飲むサトシに、問いかける。
このまま、サトシがポケモンたちに会いにいったら、自分はまだ溜まっているレポートを作成しに部屋に戻ろうか。
なんて、考えながら、シゲルは、サトシの答えを待った。
もう少し、サトシと一緒にいたいという気持ちも、確かにあったけれども、それと同時に、サトシをポケモンに合わせてやりたいという気持ちも、ある。
サトシが如何にポケモンを好いているのかを知っているし、逆に、ポケモンたちが如何にサトシを好いているのかも知っている。
シゲルは、どこか、同年代の子どもとは大人びた考えを、頭の中ではじき出した。

「んー…今日はシゲルと一緒にいるよ。ピカチュウ、みんなのことよろしくな!」
「ピカ!」

けれども、サトシが選んだのは、シゲル、で。
ほんの少し、シゲルは、目を見開く。
その間に、サトシはピカチュウの頭を撫でて、それから外へと続く扉を開けてやっていた。
遠くから、ピカチュウの可愛らしい声と、ピカチュウに気がついたのであろう、ポケモンたちの声が、聞こえる。

「…いいのかい?君も、楽しみにしてたんだろ?」
「そうだけど…でも、今日はシゲルといたい気分だったんだよ!…だめ、だったか?」

ぱあ、と、太陽のように笑うサトシは、けれども、すぐにしゅんとしながらシゲルの様子を確認してくる。
以前までなら、すぐにでもポケモンたちのところへ走って行ったのに。
そんなサトシの、ほんの少しの変化に、シゲルは、ぱちぱちと、瞬きを、繰り返す。
そして、肩をかたかたと揺らし、笑い始めた。

「な、なんで笑うんだよ!」
「だって、…今更、僕の都合を聞くって…!もし、僕が忙しいって言ったらどうするつもりなのかな?サートシくん?」
「そのときは…!……ピカチュウたちの仲間にいれてもらうから、別に、いいし…!」

なんて言いながらも、サトシの視線は不安げに揺れる。
これで、無自覚だというのだから、なんてたちが悪いのだろう。
しかし、これが、サトシなのだ。
だから、サトシなのだ。
こうやって、いつまでも、自然に接してくれるのが、サトシなのだ。

「いいよ、今日は僕も、サトシと一緒にいたいって思ってたんだ」
「本当か!なら…ほら、見てくれよ!」

自分でも呆れるくらいの柔らかく甘い声になってしまうのにも、サトシは気がつかずに、嬉しそうに笑う。
そして、はじけるように、サトシは立ち上がると、たたっと走って、向かいに座っていたシゲルの横に、ぽすんと座った。
楽しげにみせてくるのは、ポケモン図鑑。
一つ一つ見せながら、あのときは、このときは、と、聞かせてくる。
その瞳は、きらきらと輝いていて。

「それでな、そのときに…どうしたんだ?シゲル?」
「…いいや、なんでもないよ。で、続きは?」
「続きは…!」

つい、無意識にサトシを見つめていたことを、サトシに指摘されると、シゲルはなんでもないと言って、首を横に振った。
そんな様子に、サトシは、疑うこともなく、足されたままに話を続ける。

ぽかぽかと、暖かい日差しが窓越しに差し込む中、楽しげな二人の声が部屋の中に響いた。




あまくち オレンジ・ジュース
ぼくには あますぎて のめないよ(なんて うそ!)





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あきゅろす。
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