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ソルティー・パフェ




気がつけば、三人いつも一緒にいた。



家が隣同士だったこと。
年が一緒だったこと。
マサラの地には、同年代の子供がいなかったこと。
そして、ポケモンが、好きだったこと。


そう、たったそれだけ。
それだけの理由で、気がつけば、僕たちは一緒にいた。


別に、他に理由なんてない。
ただ、なんとなく、三人でいるのが楽しかったから、一緒にいただけで、他意なんてないんだ。

だから、こんなに自分がイラつく理由が、わからない。
そしてまた、イラつく。



「ファイアもリーフも、本当に意地っ張りよねー」
「…いきなり何、アクア」
「べっつにー。思ったことを言っただけ」



暗いトキワの森を抜けて、そこにあるニビシティのポケモンセンター。
バトルで疲れているだろう相棒たちを預けている間の暇つぶしに入ったカフェで、ファイアは、双子の妹、アクアに出会った。
アクアは、ファイアを見つけると、ふんわりと笑みを浮かべて、隣の席に座る。
そして、二人で、お互いのポケモン図鑑を見せ合ったり、最近の出来事を離して。
アクアには多いんじゃないかと思ったパフェを、ぺろりと食べる姿をファイアは視界に移しつつ、女の子って結構食べるよな、なんてぼんやり思っていたときの、言葉だった。

なぜいきなりリーフがでてきた。

む、と、無意識に眉間に皺が寄る。
それを見て、アクアは、けらけら笑った。
そして、たっぷりの生クリームがのったスプーンを、口の中につっこまれる。
甘い甘いそれは、確かに女の子の好きそうな味だ。
自分には、こんなに食べれないだろうけれど。
そもそも、こんなにも可愛らしくて甘いもの、自分には似合わない。

「だって、さっきからファイアの話ってリーフのことばっかりなんだもん。妬けちゃうわ」
「…あいつが、僕の行くところにいるんだよ。ストーカーかってくらいに」
「ストーカーって…!だそう、だけど。」

あはは、と、笑ったアクアは、くるりと後ろを向いて、意地わるそうに言う。
え、と思い、ファイアも、勢いよく振り向くと、そこには、これまた眉間に皺を寄せたリーフがいた。
そのまま、アクアを挟んで、リーフは席に座る。

「ストーカーなんかじゃねーよ!ファイアがオレの後をついてくるんだろ?」
「なんで僕がそんなことしなくちゃいけないんだよ。」
「ほらほら、会えて嬉しいからって喧嘩しないでよね」
「「嬉しくない!」」

あら、息ぴったり。
なんて、ファイアとリーフの間で笑うアクアに、何を言っても無駄だと、ファイアは口を閉じた。
リーフはいまだに、そんなことはないだとか、騒いでいるけれども。

「だって、リーフもリーフで、私に会うとファイアが、ファイアがって言うじゃない」
「…なに、お前、そんなに僕のこと見てたの?…うわ、きもちわるい」
「だーかーらー!ちっげーよ!ファイアがとろいから、視界に入ると気になるんだよ!」
「頭の弱いお前に心配されたくない」
「はいはい、二人とも目立ってるからね」

はっと、アクアの声で、周りからの視線に気がつく。
あぁ、もう、やっぱりリーフのせいだ。
もう話すの止めよう。ろくなことがない。
なんて、思って、頼んだオレンジジュースを飲む。
その間にも、アクアとリーフは、会話を続けていた。

ファイアに比べると、おしゃべりな二人の会話は、止まらない。
そこに、たまにファイアが一言入れる。
それが、昔からの、三人の、かたち。

「そういば、今日はいないのね。えっと…彼女3号さん!」
「……別れた」
「なにそれ!まーた、リーフは…そろそろ本命だけにしないと、本格的に嫌われるわよ」
「はぁ?本命って、…、オレ、付き合ってる時はその子が本命だけど?」

からん、と、オレンジジュースの中の氷が、音を立てる。
あぁ、もう、まただ。
また、イライラと、してくる。
どうして。
今まで、平常だった心に、色に表すのなら、黒い、きっと、霧のような感情が、蔓延る。
今までこんなことなかったのに。

そう、こんな気持ちを覚えたのは、たしか、旅立ってからだ。
そして、リーフと、旅の途中に会ったときで。
だから、これは、きっと、いや、絶対、リーフのせいだ。
なぜかは知らない。
けど。

「ほんっと、お前、うざい」
「はぁ!?なんだよいきなり!」
「そうね、さすがに今のはリーフがうざいわね」
「アクアまで!?」

なんで!?
なんて、涙目になっているリーフを横目に、ファイアはもう一度、オレンジジュースを飲む。

どうしてだろう。
昔は、三人で遊んで、ずっと一緒にいて、楽しかったのに。
こんな気持ちにはならなかったのに。
旅に出てから、変だ。

誰が?
僕が?
どうして、僕はなにも変わってなんかいない。
変わったのは、リーフだ。
僕やアクアと離れたら、いきなり、彼女なんて作って。
しかも、なにがひどいって、会うたびに、その自称彼女さんとやらは、違う女の子へと変わる。

あぁ、そうか。
きっと僕は。

「そういう無節操なところが、男としてうざい。ほらアクア、そんなやつの隣にいると妊娠するよ」
「なんだそれ!男のステータスだろ!あと、アクア!そんな言葉信じるな!移動するなよ!」
「リーフとの子どもなんて、私、恨まれるのは嫌よ」
「意味わかんねぇ!」
「今までの歴代彼女にアクアが目をつけられたら、お前、ボルテッカーかける三回な。あと、僕が直接殴る」
「すみません、許してください、ファイアさん」

がたっ!と、素早く頭を下げるリーフは、見た目はいいのに、それをも凌駕する残念な姿だ。
じぃ、と、その姿を見てると、リーフは、おおげさに、もう一度、すみませんでしたあああ!と、叫ぶ。
嫌なら黙ればか。
そんなことを思いながら、ファイアがため息をつくと、ちらりとリーフはファイアを見て、それから、アクアが移動して空いた分の席を、詰めてきた。
ファイアを真ん中に、再び始まる会話。

飛び交う会話を聞きながら、ファイアは、思う。

なんだか少し、すっきりした。
そうだ、きっと僕は、節操のないリーフにイラついていたのだろう。
会うたびに変わる、隣にいる女の子。
男として、許せない。一人の人を大切にしないリーフがいけない。
それが、無意識に、苛々させていたんだ。

うん、と、一人納得するファイアを見て、リーフは首を傾げ、アクアは大きくため息をついた。

「……ほんと、リーフ、あんたは自分の本命を自覚しなさい。いい加減、殴るわよ」
「そうだな、いい加減あの態度を直さないと、殴るぞ」
「ファイアも自覚した方がいいと思うわよ?」
「してるけど?」

無言になったアクアに、ファイアは首を傾げるものの、なんでお前ら最初に殴るから入るんだよ!と騒ぐリーフに、気をとられる。
ぎゃあぎゃあと騒ぐリーフに、やっぱり、どうして女の子がこいつに惹かれるのかがわからない、と、ファイアは思った。

「…ほんと、世話が焼ける兄と幼馴染を持つと大変だわ…。」

ぽつりと、小さく小さく、呟かれた声に、ファイアとリーフは、顔を合わせる。
そして、もう一度、大きくため息をついたアクアに、さすがは幼馴染というのか、まったく同じタイミングで、二人は、首をかしげた。




「すみませーん、チョコケーキとチーズタルトとショートケーキとストロベーリーパフェと、あと、ハンバーグセットくださーい!あ、ファイアとリーフのおごりね!」
「オレたちのおごり!?」
「待って、ケーキはまだいいけど、ハンバーグセット!?」





ソルティー・パフェ
甘さなんて 求めていないのさ






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