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バイ・マイ・ウェイ





「レッドー!ジュースなくなっちゃわよー!」
「せんぱーい!オレ、サイダーがいいっす!」




そんなブルーとゴールドの声に、レッドは、キッチンからリビングの方へと、りょこりと顔を出した。
さっき出したはずの料理は、知らぬ間に空になっていて、今は、ポテトチップスなどのスナック菓子がテーブルの主役になっている。
そして、飲み物がなくなったと言っていたブルーはグリーンに、ゴールドはシルバーとクリスに、窘められてはそんなもの気にせずに他の後輩たちと談笑を楽しんでいた。
そんな彼らに、レッドは、くすりと目元をほころばせると、再びキッチンに戻る。
それから、冷蔵庫の扉を開けて、サイダーと、それからオレンジジュースの入った大きなペットボトルがまだあるのを、確認した。


きらきらと、星が輝く、マサラの静かな夜。
しかし、今日は違った。
普段は、レッドしかいない静かな家が、今日は騒がしい。
お祭り騒ぎが好きなゴールドが、たまには図鑑所有者同士の交流が必要だと、提案したのだ。
それに、もちろんお祭り騒ぎの好きなブルーがのって。
そんな連絡が、レッドに回ってきたのは、数週間前のことだ。
ふらりといつものように旅をしていたレッドのポケギアが、コール音を鳴らし、それにでてみれば、少し疲れた様子のグリーンがその画面に映し出された。
きっと、はしゃぐゴールドと、いつものように事をおもしろおかしい方向へと流していくブルーの相手をしていたせいだろう。
コールに出た瞬間、レッドを確認した瞬間に、大きくため息をついたときのグリーンには、つい、レッドも苦笑を零すしかなかった。
それからあとは、流れるように今日へと日にちは流れていった。


笑い声と、それからたまに入る、少しだけ怒った声。
そんな暖かい空気に、レッドは、自然と鼻歌まじりで、ジュースと一緒にだしたケーキを、皿の上にのせた。


「なにか手伝うことはあるか?」
「んー、今はないかな。あとはこれを持っていくだけだし」
「そうか」


昨日、作って置いたケーキ、それを一つずつ、人数分に切って皿にわけていると、ついさっきまでブルーたちに絡まれていたグリーンが、後ろに立っていた。
なんでもない顔をしているけれども、レッドには分かる。
大方、調子にのったゴールドと、それをさらに悪化させるブルー、それにのせられた後輩たちの相手に疲れて逃げてきたのだろう。
みんな、騒ぎはするけれども、料理を作っているレッドを邪魔する気はないらしく、荒れたリビングに比べると、キッチンはまさに避難場所と化していた。

「だから、向こうで待ってても平気だぜ」
「………」
「嘘だよ、嘘!だからそんな目で見るなよ!」

つい、意地悪をして、気がつかないふりをしてみれば、グリーンから向けられる、恨みがましい視線。
それに、ぷっと笑ってしまいながら謝ると、それも気に入らなかったのか、やっぱりじとりと睨まれた。
そんな顔をされると、笑いもおさまらなくて。
かたかたと、肩が揺れるのをレッドは隠しもせずに笑った。
笑うレッドに、グリーンは、大きなため息をついて、壁にもたれかかる。
なんだかんだで、やはり、向こうに戻る気はないようだ。
それもそうだろう。
普段は、先輩だから、と、遠慮をしている後輩たちも、今は、その場の雰囲気というやつに酔っているのだから。
そうなってしまえば、彼らに怖いものはない。
いつもならば、比較的無口なグリーンに話しかけるのは気がいるだろうが、今はそんなものを無視して、じゃれにきているのだろう。
グリーンだって、それが嫌なわけではない。
ただ、それにも限度がある。
一気に大人数に絡まれた上に、ブルーとゴールドの相手。
頼みのシルバーはブルーには強く言えないし、クリスはクリスでゴールドに呆れかえって完全放置の方向へと走っているようだった。

それに、レッドだって。
グリーンにこの場にいてほしいと、思っていたのだから。

確かに、みんなと騒ぐのは楽しい。
けれども、久しぶりに会えたのだから。
だから、少しぐらい、二人になりたいって思っても、いいじゃないか。
たとえ、後輩たちから先輩と慕われようとも、レッドもグリーンも、まだただの、子ども、なのだから。

それでも、今日は、みんなとの交流、が、目当てなのだから、レッドも、そうやって言わなかったけれども。
グリーンと一緒にいたいと言うのならば、明日、改めて彼と会えばいい。

でも。
でも。

(一緒にいたいって、グリーンは分かんないだろうな。鈍いし)
(なんだかんだで、グリーンも楽しそうだし。それを聞いてるおれが不安を感じるとか、…わかんないな。鈍いし。グリーン)

いい友人でいたい。
いい親友でいたい。
いいライバルでいたい。

そう思う。
確かに、そう思うけれども。

(グリーンのせいで、こんな女々しくなってるっていうのに、グリーンはまったく気がつかないし!)

ほぼ、八つ当たりにも近い考えを持ちながら、ちらりと、レッドは、グリーンを見た。

すると、バチン!と、交わされる視点。
一瞬止まる、時間。
ドクン!と、鳴るレッドの心音。
感情が、どこかに走りそうになる。

それもこれも、グリーンのせいなのに。

「どうかしたか、レッド?」
「……いや。……そうだよな、うん、分かんないよね、グリーンだし」
「……俺はどうして馬鹿にされてるんだ」
「グリーンだから」

グリーンは、不機嫌そうに眉を寄せる。
それを、レッドは慣れたように交わして見せると、今度はケーキの乗った皿をトレーに移した。
図鑑所有者の男女比率は、だいたい半々。
だから、甘すぎず、だからと言って無味ではない、ふんわり優しい味の、ケーキ。
それを持って、リビングへ行こうとする、それよりも前に、グリーンがそのトレーも持って、さっさとリビングへ行ってしまった。

その様子に、怒らせちゃったかな、と、レッドは小首をかしげる。
けれども、さすがにグリーンも、あんな言葉遊びにそこまで機嫌を損ねるような性格ではないと知っているので、すぐにレッドは思考を切り替えた。

むしろ、こんなにも小さなことに、もやもやと悩んでいる自分の方が、子どもだと、レッドは思った。

かまってほしくて、子どものような売り言葉を言って。
自分を見てほしくて、からかって。
どれもこれも、二人でいたかったら。
グリーンといたかったから、言ったこと。したこと。

これでは、本当に、子どものレンアイ、だ。
いいや、愛にもなっていないだろう。
ただただ、自分のことしか考えていない、身勝手な、恋。
グリーンのことなんて、考えてない、自分だけを思った、そうこれはきっと、恋だ。
レンアイだなんて、アイだなんて、なんて程遠いんだろう。

けれども、こんな風にレッドを変えたのは、グリーンだ。
だんだんと、変わっていくレッドは、そう、グリーンによって。
たとえ、それをグリーン知らなくても。

子どものような、レッドの恋は、けれども、子どもと大人の間にいるレッドによって、ほんの少し変わっていく。
きっと、子どもがしたのなら可愛らしい恋は、子どもと大人の挟間にいるレッドによって、ほんの少し、いじわるになって、ずるくなる。

「レッドー!ジュースはー?」
「せんぱーい!サイダー!あ、ケーキ、うまいっすよ!!!」

レッドは、もう一度、冷蔵庫の扉を開く。
冷えたオレンジジュースも、サイダーも、その中にあった。
それを、しっかりと、レッドは、確認して、そして、その扉を閉める。

「ごめん、なんかもうジュースなくってさ。おれ、買ってくるよ。あと他にも欲しいのある?」
「あ、先輩、私、お煎餅がほしいったい!」
「じゃあ、僕はチョコレート系のもので」

ルビーとサファイアが、可愛らしい笑顔とともに、そう告げてくると、レッドは、柔らかな笑みを浮かべて、わかったと返事をする。
それから、グリーンに視線を向けると、今度は、ちょこんと小首を傾げて言った。

「というわけで、グリーン。もちろん手伝ってくれるよな?」
「あぁ、かまわない」
「じゃあ、先輩、オレも手伝いますよ!」
「いや、ゴールドはいいよ。せっかくカントーまできてくれたんだしさ!グリーンは、遠出もなにもないご近所さんだし!」

にっこりと、笑みを浮かべて、レッドは立ち上がろうとするゴールドを止める。
それにゴールドは、じゃあお言葉に甘えて、なんて言って、再び席に座って隣にいるシルバーに話しかけ始めた。

「ほら、行くぞ」
「ん」

ぽん、と、グリーンに頭を軽く撫でられると、レッドは、振り返りグリーンを追う。

そう、子どもと大人の挟間にいるレッドの恋は、ほんのすこしだけ、いじわるなのだ。
たとえば、二人でいたいから、小さな小さな、ウソを、ついてしまうくらいに。
たとえば、グリーンを一人占めしてしまうくらいに。

明日になれば、好きなだけ、グリーンを一人占めできただろう。
明日になれば、好きなだけ。
でも、でも、我慢できなかった。
子どもでもない、大人でもない、レッドの、恋。



(おれって、わがまま、なのかなぁ)



もう暗い夜道を、グリーンの隣について歩きながら、レッドは、ぼんやりと、思う。
けれども、心は、気持ちは、確実に満たされていて。


明日も、君がほしいよ。
今日も、君がほしいよ。


だから、きっと、おれはわがままなんだな、と、レッドは、グリーンに気がつかれないようにわらった。





(おれって、わがまま。いじわる)




でも、それは、君のせいなんだ!





バイ・マイ・ウェイ
けれど、愛はまだ 夢のまま




song by 坂本 真綾 "ミライ地図"

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