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シガレット・キス




爽やかな風が吹く、小高い山の上。
誰もいない草原に足を放りだして座る、影が一つ。


かち、と、小さな音を鳴らして、火が灯るライター。
それに、白く名が細いそれを近づけて、燃やす。
先端が赤く光るそれを、ぼんやりと見てから、不器用な手つきで、それを咥えた。

そのまま吸うんじゃないんだよな、たしか、肺にためるように、吸うって言ってた。
誰が?
さぁ、そんなの忘れたけれども。

すう、と、吸い込んだ煙。
と、とたんに、ごほっと、せき込んだ。

「なにやってるんだ、お前」

そして、後ろから、スッと伸びてきた手が、咥えていたそれ、煙草、を、取り上げる。


「あーあ、見つかっちゃった」


へらりと、笑顔を浮かべたレッドに、グリーンは、それはもう不機嫌そうに眉間に皺を寄せると、レッド、と、固い声でその名を呼んだ。
そんなグリーンの様子にも怖気ず、レッドは、自分の隣をぽんぽんと叩く。
はあ、と、大きなため息をつくと、グリーンは、そんなレッドの横へと座った。
レッドはレッドで、自分の横に座るグリーンを横目で見ながら、ごそりと自分のポケットの中をさぐる。
そして、隣に座って呆れた視線を自分へと投げる彼へ、携帯用の灰皿を渡した。

「……いつからだ」
「今回が初めて」
「本当か?それにしては、準備がいいな」
「今日、ここで試して、それで終わりにしようと思ったんだよ。捨てる場所、ないだろ、ここ」

信じられない?
そう言って、少し寂しそうな表情で小さく首を傾げるレッドに、グリーンは、卑怯だ、と、思った。
きっと、それは本当のことなのだろう。
レッドは、嘘を言わない。
本当のことを隠したいときは、嘘を言うのではなく、黙っている、そんなやつなのだから。
だから本当に、彼は、今日、この一回のためだけにこのタバコを買って、それを捨てるためにこの携帯灰皿も用意したのだろう。

「だが、それでも性質が悪いな」
「どうして?」
「こうやって隠れて吸おうとしてる時点で、悪いことをしている自覚があるということだろう」
「えー…隠れてるかな、これ。だいぶオープンだと思うけど」
「俺は普段、こんな場所にこない。俺から隠れただろう」
「………すみません、その通りです」

ほらやっぱり。

いくら、図鑑所有者の中でも特に秀でているとは言っても。
いくら、戦う者と称されても。

レッドも、結局は、自分と変わらない、ただのこどもだ。

きっと、いつものようにふらりと立ち寄ったどこかで、なにかいらない情報でも耳にいれたのだろう。
元々好奇心旺盛なレッドのことだから、いつもと同じように、少し、試したくなっただけなのだおる。

「いいか、煙草は、成人してからだ」
「………はい」

しかも、元々が素直な性格だから、こうして自分が悪いと分かっているときなんて、反論することなく反省してくる。
それなのに、こういうことをしてしまう彼に、もう一度、グリーンは、はぁ、と、ため息をついた。

「煙草なんて、吸ってもいいことなんて一つもない」
「でも、ストレス解消!とかっていうだろ!それに、煙草吸ってる人って、なんだかちょっとカッコよくないか?」

今まで、しゅんと反省していたかと思えば、すぐのこうやってへらりと笑顔を浮かべる。
そんな姿が、憎らしいし、けれどもよけいに可愛らしい。
そんなことを考えている自分にも、グリーンは、内心ため息をついてから、レッドをじとりと睨みつける。
あはは、なんて、気の抜けた笑い声をあげるレッドも、本気で言っているわけではないのだろう。

「でも、煙草ってまずいんだな。みんな、美味しそうに吸ってるのに。おれ、咽ちゃったし」

ぱたん、と、草原に倒れこんで、空へと両手を伸ばしながら、レッドは、ぽつりと話す。
レッドは、いつも、先へ先へと向かっている。
それがどこに着くのかは分からないけれども、きっと、今回も、そんな、未知へと至る、そんな一つのきっかけだったのだろう。
だからといって、未成年なのに煙草を吸うなんて、許されることじゃないけれども。

「これに懲りたら、もう吸わないことだな」
「はーい」

くすくすと、隣から零れてくる笑い声に、グリーンも、ようやく、ふわりと小さく笑みを返した。

ゆっくりと、太陽が西へと沈む。
さっきまで青く澄み渡っていた空が、燃えるような赤へと、変わっていく。
ゆったりとした時間を、二人で感じていると、ふ、と、レッドが口を開いた。

「でも、さ。おれが煙草吸ったのだって、グリーンが原因でもあるんだぜ?」
「…どういうことだ?」
「こういうこと!」

グリーンが、ちらりと、レッドへと、視線を移す、と、同時に、その手を後ろへとひかれた。
目を瞬く合間に、グリーンの視界一杯に、燃えるような赤い空とにんまりと笑った、レッドの姿が写りこむ。

そして、そのまま、グリーンの顔に、影が落ちると、そっと、レッドの唇が、グリーンのそれに押しあてられた。
一瞬のそれは、けれども、離れる間際に、ちろりと唇を舐められる。

ぱちぱちと、瞬きをするグリーンは、自分の腹部に乗ったレッドの姿を見ると、くつりと、喉で笑う。

「確かに、俺が原因でもあるようだな」
「だろ?だから、グリーンがなんとかしてくれないと、おれ、また煙草、吸っちゃうかもな」

目を細めて挑戦的に笑うレッドは、まるで猫のようだ。
たとえ、その頬や耳が赤く染まっていたとしても、それは、きっと、夕陽のせい。

「それは、困るな」

ならばと、グリーンは、その手をレッドの頭へと伸ばして、今度は自分から、その唇を、寄せた。
抵抗することなく、重ねられたそれに、グリーンは、そのまま自分の舌を、レッドの咥内へと差し込む、。
そこは、普段とは違う、味。
独特の、苦い、煙たい、味がした。

「…、まずいな」
「んっ、……なら、もうこんな味にならないように、よろしく頼むぜ、グリーン」

どこか潤んだ瞳で、けれども勝ち気に笑うレッドの口元を、親指で拭ってやりながら、グリーンも、くすりと小さく笑った。
そして、返事の代わりに、もう一度、その唇に自分のものを、重ねた。






シガレット・キス
苦さのかわりに キミをちょーだい





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